お休みどころ

こころの相談活動を作り続ける
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外傷体験のある人の治療や支援について 2019年7月13日(土)

   精神科で診療していると、子どもでも大人でも外傷体験を受けて育ってきた人たちとよく関わります。明らかな虐待を受けてきた人から、明らかではなくても家族の課題がいろいろあり、幼少期から非常に気を使って生きてきた人までを含みます。外傷体験がさまざまな精神疾患だけでなく、行動の問題(依存症など)や対人関係の問題、身体疾患などまで起こしやすくするというのが近年わかってきています。
   外傷体験が重度である人の治療はもちろん難しいです。決定打となるような治療はいまのところまだないと思いますので、年単位で焦らずにサポートしていくことが求められます。ですがもっと難しいのは、本人も周囲も外傷体験を認識していない場合です。はっきりした外傷体験があることが事前にわかっていればこちらもそのつもりで臨みますし、ある程度「関係がこじれても驚かない」という心づもりがあります。ところが治療を受けている本人ではなく、実は家族が外傷体験のある人であったりすると、こちらにそのつもりがないので、治療の見立てを間違ってしまうことが多いです。あとになって「実は支援をいちばん必要としていたのはこの人だったんだ」をわかることが多いのです。
   さらに複雑なのは、入院している患者さんどうしが影響しあって、ある人の外傷体験の後遺症が別の人にあらわれてくるような場合です。こうなると事前に予測することは難しく、治療中に「あれ?」「なんで?」という思いを繰り返しながら、気づいていくことになります。子どもは大人に比べて集団の相互作用が強く出る印象があります。そのぶん治療の流れも複雑になりやすいです。
   最近もそんな経験がありました。いままでは「この人が家族にいるせいで治療がうまくいかない」と思ってきた人が、「おそらく背景に外傷体験があり、いちばん支援を必要としている人だったんだ」と気づけたのです。ただ多くの場合にそうなのですが、こちらが痛い目にあわされるなかで気づく場合が多いです(泣)。良かれと思って支援しているその手を振り払われるようなことが多いのです。
   ここが外傷体験のある人の支援の難しいところで、最後まで円満な関係で進むことは少なく、途中に「対決」するような場面があったり、相手の嫌なことを伝えないといけなかったり、こちらの心が折られたり、こちらの思い通りにいかないことを受け入れないと前に進まないような場面があることが多いのです。設定した流れとおりに治療が進まないことが多く、せっかく取り決めてきた枠組みが崩れてしまうこともあります。
   つまりこちらが振り回されたり、悩んだり、困らされたり、いらだったり、なんらかの不愉快な経験をしないままにスムースに治療が進むことは期待しにくいのです。当たり前と言えば当たり前なのですが、外傷体験のある人は対人関係に困難さを抱くことが多く、回復もまた対人関係の揺れ動きのなかで進んでいきます。過度に信頼されたり、不信感を抱かれたりするので、治療する側は「振り回される」と感じてしまいます。ですが本人は辛い記憶を反復しながら徐々に記憶の質が変わっていくのに耐えているのですから、一貫していなくても当たり前なのでしょう。
   このプロセスは治療者と患者さんの間だけで進むものではありません。同僚との関わりのなかでも、ときどき「もしかして外傷体験があったんじゃないか?」と感じることがあります。科学的ではない言い方なのですが、その人になんらかの影やモヤモヤしたものがつきまとっているように感じるのです。あれこれやり取りをしながら、だんだんとその人がほっとしているのを感じられるようになっていきます。外傷体験が残すものとは絶えざる過度の緊張や不安であり、その回復とはホッとできることなのかもしれません。
   外傷体験の治療というのは、積極的に確実に狙ってできるものではなく、あれこれしているうちにいつしか成立しているという面があります。その意味では外傷体験のある人に少しでも関われることは、人生の幸運と呼ぶべきでしょう。治療者の役割とは相手の踏み台になることであり、治療者自身が幸せになることではありません。普段から自分の精神面の安定感を培い、精神の揺れに耐えられるしなやかさを持つことが、精神科スタッフとしての技量であり資質なのではないでしょうか。くつろげる雰囲気にこそ精神科治療の秘密があるのだと思います。

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2019年7月日録1

7/2(火)   金魚たちに病気が流行って次々に死んでしまった。かわいい金魚ほど環境変化に弱く(水温・細菌環境など)、季節の変わり目などに病気になってしまう。また一匹が病気になると、次々と連鎖してしまう。金魚はまさに「生きた宝石」であって、お世話をするのは大変だ。美紗さんはガックリきているが、失敗しないと前に進まない。
   息子の響の眼科受診のために熊本県の御船町に行くことがあり、比較的近くにある「江藤養魚場」に寄ってみた。さまざまな種類の金魚がたくさん泳いでおり、見ているだけでワクワクしてくる。美紗さんはじっくり選んで、「桜錦」という種類の金魚を買った。今度こそ死んでしまわないように、工夫を考えないといけない。水槽の大きさや配置、温度管理などが鍵になる。
7/3(水)   大雨の心配が強く、人吉球磨でも避難勧告や指示が出ていた。学校も休校になった。そんなときに急に家の電気が消えた。いつものブレーカーを上げても電気がつかない。僕は知らなかったのだが「漏電ブレーカー」というものがあり、それが落ちていたのだった。あとで調べるとエアコンが原因だった。またそれとは別に大雨による停電も重なり、不安感が強まった。災害のときには自分たちが電気に依存して生活していることがよくわかる。便利なものは、それに頼ってしまうので、不調になると困ってしまう。
7/5(金)   先月拾ったイシガメだったが、ずっと野生で生きてきたせいか、僕たちに全くなつかない。エサも食べず、僕たちを見るとバタバタと逃げようとすることを繰り返していた。次第に活気が減ってきていたので、うちで飼い続けるのは難しいと思うようになった。子どもたちは嫌がったが、安全な場所に放すことにした。車にひかれないかがいちばん心配なところなので、道路から離れたところに放した。意外なことにすごく速く歩いていく。陸生の強いイシガメは足が速いのだと知った。
7/7(日)   熊本県水俣市の「湯の児(ゆのこ)海水浴場」に子どもたちを連れて出かけた。梅雨の晴れ間だったこともあり、人が多くなくて助かった。波打ち際まで小魚が泳ぎに来ている。手ですくおうとするが、すばやく逃げてしまう。水俣は海の幸が豊かなところだと聞くが、たしかに魚が非常に多いのだとわかる。水俣の地域学の雑誌にも水や山や川や海など自然資源の豊かさが強調されている。水俣も「お休みどころ」を作るのにふさわしい場所の1つだと思った。これから世界のあちこちの安息の場がますます必要とされるはずだ。

 

写真1〜2は熊本県熊本市にある鯉や金魚の専門店「江藤養魚場」で撮った写真です。


写真1   お店の外観。一見普通の住宅だが・・・。

 

写真2   たくさんの種類の金魚が泳いでいて、ワクワクする。

 

写真3   イシガメを放した。

 

写真4   熊本県水俣市の「湯の児(ゆのこ)海水浴場」に行った。

 

写真5   近くにある「湯の児スペイン村 福田農場」では地域の魚介類を生かしたランチが食べられる。

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2019年7月日録2

7/9(火)   地域の認知症初期集中支援チームにはさまざまなケースが上がってくるが、認知症の支援だけでは解決しないことが多い。特に家族の課題が大きい場合には、認知症の本人よりも家族に関わらないといけなくなる。現在の行政のサポートは年代別や部門別になっているが、あちこちにまたがる複合的なケースへの支援が弱い面がある。病院に総合診療科ができているように、役場にも総合的な対応をする課が必要になるのではないか?
7/10(水)   娘のやすみの授業参観に行った。僕は初めてだったが、娘はとても緊張したようで、何度も何度もこちらをチラチラ見て、授業には集中できないようだった。道徳の授業だったが、小学1年生とはいえ、かなり高度な命の問題を扱うものだった。積極的に発表する子もいたし、一方で全然手をあげない子もいた。やすみは最初は緊張していたが、後半になって発表できた。多様な子どもたちがいるなかで、みんなに同じペースで理解してもらうのは難しく、授業を進める先生は大変だ。本来なら個別に近い教育が理想だが、限られた教員の人員のなかで、どう実現していくのかが難しいところだ。
   夕方に子どもたち3人を乗せて、ガソリンスタンドに車で行った。小学生への授業がうまくいったこともあり、僕も高揚していた。そのあとツタヤの駐車場内をゆっくり走っていると、グシャリという感覚がした。なんと横から出てきた車と接触していたのだった。僕は接触事故は初めてだったので、どうしていいかよくわからなかった。相手も同じような感じで、とりあえず僕が警察に電話した。警察の方は手早く処理されていたが、テンポが早すぎて子どもたちの年齢などをうまく答えられなかった。動転していると、頭が回らない。結局比較的短い時間で事故処理が終わり、相手の方ともケンカにならずに良かった。ケガもなかった。いままでは交通事故のことを真剣に考えていなかったが、すぐ身近に事故はあるのだと思った。「自分も人も不完全で、事故を起こすことも、事故にあうこともある」ということを意識するのが大事だと思う。
7/15(月)   子どもたちを連れてディズニー映画『トイ・ストーリー4』(ジョシュ・クーリー監督、2019年、アメリカ)を観に行った。トイ・ストーリーは1〜3のそれぞれが渾身の作で、続編を作るのは難しいだろうと思ってきた。どんな物語でも進めば進むほど登場人物の内面が深化していくが、トイ・ストーリーもそうで、冒険・勇気・友情といった従来のテーマに加えて、献身・思いやり・愛情・自分のいるべき場所といった価値観が表れていた。どんな存在でも永遠に若くはいられず、いつかは限られた時間を何に捧げるかの選択を迫られる。何を選ぶかがその存在の人生を作っていくのだろう。

 

写真6   「イオンタウン姶良」のなかにあるボルダリング。響も上まで登れたので驚いた。

 

写真7〜8は熊本県の益城町にある「ドラゴンキッチン 益城本店」で撮った写真です。


写真7   個性的な建物だ。

 

写真8   子連れでも行きやすい。

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2019年7月日録3

7/16(火)   運転免許の更新に運転免許センターに行った。響を保育園に送るときに体操服を忘れて取りに帰ったりしていて、時間がギリギリになり、あと1分遅ければ間に合わなかった。最近小さいながらも事故を2回起こしてしまったので、運転技術について学びたかったが、あっという間に講習は終わってしまった。テキストももらったが、細かすぎて痒いところに手が届かない感じがある。交通事故は年々減っているそうだが、人間が進歩したというよりは機械の進歩の貢献の方が大きいのかもしれない。運転の基本的な部分は人間よりも機械の方がはるかにうまくできるようになるのだろう。人間の出番は複雑な状況判断だけになるのではないか?
7/17(水)   末っ子のしずくが2歳になりおしゃべりができるようになった。何が変わったかといえば、子どもたちが3人でワアワア遊べるようになったことだ。同じように3人でケンカもできるようになった。僕たち大人が入らなくても自分たちで騒いでいる。3人いれば1つの集団なので、刺激があっておもしろいのだろう。僕は兄と2人だったので、違うなぁと感じる。3人いれば複雑だ。
7/18(木)   吉田病院には分野ごとに自主勉強会のようなものがある。僕は「子ども支援チーム」にいつも参加しているが、同僚に誘われて「認知症チーム」に初めて参加してみた。当たり前だが自主的に勉強する人たちはやる気があり、スキルアップを目指している。数は少なくても意志のある人たちが集まれば、組織は変わる。いまのところ依存症・認知症・児童思春期といった分野の学習会があるが、他にも増えていけばいいと思う。少数の人たちが議論を深めていくと、やがて全体に波及するだろう。
7/21(日)   子どもたちが観たいというアニメ「ポケットモンスター」の映画『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』(監督:湯山邦彦、2019年、日本)に行った。子ども向けの映画だけあって、普段はジッとしていられない2歳2ヶ月のしずくでも、後半まで観ることができた。幼児も観れるのに、実は内容は高度で、トラウマ治療のプロセスに近いと感じた。そんなことを子どもたちがわかるわけがないのだが、ポケットモンスターの闘いなどを観て楽しんでいるようだった。子ども向け映画は奥が深くて驚く。大人向けの映画と一見違っていても、本質的には同じだと思う。

 

写真9   買ってきた金魚の稚魚たちを水槽に放した。

 

写真10   熊本県人吉市の「喫茶アンダンテ」にて。障害者福祉施設「地域生活支援センター 翠」の一角にある。パンは創意工夫があって、安くておいしい。

 

写真11   熊本県人吉市の屋内遊園地「Kid's US.LAND(キッズユーエスランド) ゆめマート人吉店」にて。子どもたちが3人で遊べるので、僕はほとんど見まもらなくてもよくなった。成長を感じる。

 

写真12   やすみの希望で、庭で花火をした。

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2019年7月日録4

7/23(火)   昨日から響の頭痛と発熱がひどくなっていた。小児科に行くと採血検査でCRPが高かったので、総合病院に紹介された。総合病院ではひとまず抗菌薬で経過を見るとの判断だったが、状態が悪化すれば入院の可能性があるということだった。週末から関西の僕の実家に家族で行く計画を立てていたので、「なんでこの時期に発熱するか」と思い、頭が真っ白になった。幸い解熱したから良かったが、悪化する可能性もあった。子どもが病気をすると親は疲弊する。
   夜に子どもたちが通っている「さざなみ保育園」の先生たちへの研修に行った。普段お世話になっている先生たちに講演するので、立場が逆転したような奇妙さがあった。先生方が熱心に聞いてくださるので、いつも以上に脱線が多くなった。でも脱線というのはその場で1回限りの即興演奏のようなものであり、聞き手と話し手が一体になって初めて生じる。脱線にこそ講演の命が宿るのではないか。
7/25(木)   庭の草刈りや庭木の剪定をお願いしている坂田さんが、裏庭の木にクワガタがいるよと捕まえてくださった。そこで美紗さんは子どもたちのためにクワガタを飼うことにしたが、「オス1匹だけでなくメスもいたらいいのに」と思った。美紗さんの案で夜に裏庭の木を見に行ってみると、カブトムシが2匹もいた。あまりに身近なところにカブトムシがいたので驚いた。他にも近所の栗の木などを探してみたが、見つからなかった。剪定した木から樹液が出るので、それに集まってくるようだ。子どもたちはカブトムシを触ったりして非常に喜んだ。虫と触れあえる機会が多いことは、田舎に住んでいる良さだろう。
7/27(土)   僕は地域の医療機関が取り組めていない分野を発見して取り組むところがある。最近取り組んでいるのがてんかんの診療だ。何年も悩んできたケースがいくつもてんかんだったことがわかり、ビックリしている。てんかんはけいれんだけでなくさまざまな症状を伴うが、幻覚・妄想・うつ・解離・不機嫌など精神面の症状を示すことも多い。発達症にはてんかんが合併しやすいので、診る機会が多くなった。てんかんについても地域の二次医療機関になれたらと思う。
7/28(日)   フリースクール「学びの杜学園」の親の会に参加した。早期療育の専門家のお話のあとに、僕は発達症の二次障害をテーマにお話した。参加者は多彩で、不登校の子をもつ親の他にも教員を目指す学生や医学生、ソーシャルワーカーなども来られていた。いまは教員不足が深刻だが、真剣に学ぶ若い人たちの姿を見ると励まされる。教育と療育・福祉・医療といった周辺分野との垣根は低くなってきている。
7/30(火)   長年の友人Uさんに誘ってもらい、互いの子どもを連れて食事をした。Uさんは新しく見つけたバーベキューのできる公園でごちそうしてくれた。Uさんとは大した話はしなかったが、互いの生き方の方向性を確認した感じがある。僕よりも鋭く実験精神が強いUさんは、どこにいても社会の課題を見つけ出さずにいないところがある。鋭すぎて空回りしないかが心配なところだが、自分の生活の現場から変革しようとしている。Uさんと会うと「もっと挑戦しなさい」という励ましをもらう。

 

写真13   庭でつかまえたカブトムシとクワガタを飼育箱に入れた。

 

写真14   フリースクール「学びの杜学園」の親の会の勉強会。多彩な参加者があり、主催者の熱意を感じた。

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禁煙について 2019年6月15日(土)

   僕は禁煙についてはあまり関心がありませんでした。身近な家族に吸う人がいなかったこともあり、タバコのにおいは不快で嫌いでしたが、強制的な規制までは必要ないのではないかと思いました。僕はもともと「人の行動を規制し過ぎるのは良くない」と思っていますので、「個人個人の選択に任せておけばいいのではないか」と思ってきたのです。また「タバコ=悪」というのは決まりきった図式過ぎておもしろくないといった思いもありました。
   ただ精神科の病院で勤務していると、タバコのことで困らされることが多くあります。)椰諭Σ搬押Ε好織奪佞料蠱未1日の喫煙本数が決まっているのに、しつこくしつこく「もっと吸いたい」と要求する患者さんが多い。患者さんどうしでの「あげた」「もらった」といった水面下でのやり取りが多く、トラブルがよく起きる。ライターをこっそり持ち込んだり、吸い殻をポケットに入れてやけどをしたりする患者さんがあり、火事ややけどの危険性がある。い金がないのにタバコを買うため、経済的に破たんする。
   アルコールやギャンブルの依存症の患者さんたちと普段接していると、「欲望のコントロールがきかなくなって生活全体が壊れてしまう」プロセスを肌身で感じることができます。喫煙もやはりニコチン依存症なのだとよくわかります。理性でのコントロールがきかないところに特徴があるのです。
   僕が勤務している吉田病院では7月から敷地内禁煙を実施することになりました。また産業医をしている役場でも衛生委員会で議論して、屋内禁煙をすることになりました。そして役場の職員向けに禁煙についての産業医講演をするように依頼を受けました。
   引き受けたものの、僕は禁煙について学んだことがほとんどありませんでした。産業医の研修会で、大手企業で敷地内禁煙を実現した方のお話を聞くことはありました。禁煙は相当入念に緻密に段階を踏んで進めていかないと難しいという内容でした。学べそうなテキストをインターネットで検索すると、『禁煙学 改訂3版』(編著:日本禁煙学会、南山堂、2014年)が見つかりました。これを読んで講演をすることにしました。
   ところが読むなかで痛感したのですが、普段自分が実践していることでないことは、読書をしても時間がかかり、理解が浅くなり、身につきにくいです。精神科領域の相談や支援については普段から試行錯誤していますので、その経験をもとにテキストをいろんな角度から検討しながら読めます。ところがタバコの害については普段の積み重ねがないので、テキストに書かれていることを受け取ろうとすることだけで精一杯です。これでは実のある読書とは言えません。期限までにテキストを要約するのはギリギリでできましたが、本の内容をもとにあれこれ考えることはあまりできませんでした。
   とはいえわかったこともいろいろあります。『禁煙学』の内容を要約しながら以下に書いてみます。
  タバコの健康被害はあまりにも激しく、受動喫煙の被害も大きい。ともに有害物質を規制すべきかどうかを通常議論するレヴェルからかけ離れている。例としては家庭での受動喫煙の被害がある。データによれば、受動喫煙は1〜2割の人を早死にさせる。いわゆる先進国の環境行政では有害物質への暴露で死亡するリスクの許容限度を一生涯1万分の1(職業暴露)〜10万分の1(日常生活暴露)としているので、家庭での受動喫煙の害は環境基準を2万倍も上回っている。
  妊婦と子どもの喫煙や受動喫煙の害も深刻である。特に生まれた乳幼児が将来肥満・心血管疾患・高血圧・糖尿病になりやすくなるということには驚いた。また以下の事実にも恐怖を感じた。妊婦の喫煙本数が多いほど閉経・不妊・稀発月経・多毛になりやすい。喫煙は胎児発育を阻害するため、出生体重が200〜250gほど軽い。奇形・早産・乳幼児突然死症候群・呼吸器疾患・ADHDも起こりやすくなる。小児の誤飲事故ではタバコがもっとも多く、約半数が0歳児による誤飲。乳児はタバコ0.5〜1本が致死量である。
  ニコチンは法で規制されている他の依存性薬物(覚せい剤・コカイン・ヘロインなど)と何ら変わりがない。ニコチンの依存性は強く、依存症形成のリスクはタバコで77%で、コカイン(36%)・覚せい剤(24%)より高い。
  受動喫煙防止法を制定すれば、すみやかに心疾患での入院者数が減少する。職場・レストラン・飲食施設を完全禁煙とする法律を施行した国では、心臓病などによる入院率が速やかに2〜4割低下する。
  世界的には「タバコ規制枠組条約」(FCTC)が日本を含む180か国以上で批准されており、この条約に基づいて禁煙促進が行われている。受動喫煙防止法の制定、小・中・高校・大学での禁煙教育、タバコの値上げ、パッケージでの警告表示、タバコの広告・販売促進・スポンサー活動の包括的な禁止などがその例である。日本政府もFCTCを2004年に批准しているが、全く守っていない。
   予防医学と言うのはなかなか成果の出ない分野であり、確実に立証された健康増進の方法は少ないと思います。そんななかで禁煙は確実にかつ強力に人々の健康状態を改善することがわかっています。医療者としては力を入れるべき分野だと思いました。また精神科スタッフとしては、タバコを減らすだけでなく、依存症支援に努力すべきでしょう。僕個人は発達症の人たちの支援に取り組んでいますが、発達症はゲーム依存を含む依存症を合併しやすいです。発達症+依存症のケースへの支援に努力していきたいと思います。

 

写真1   『禁煙学 改訂3版』(編著:日本禁煙学会、南山堂、2014年)。大変内容の濃い本だが、読み通すのは大変だった。

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新潟の精神神経学会に参加する1 2019年6月19日(水)

   精神科の最大の学会が日本精神神経学会です。この学会が専門医を認定してきたこともあり、専門医資格更新の単位取得には学会参加が必要(に近く)なっています。吉田病院でもドクターが順番交代で出かけるのですが、今年は僕が行けることになりました。
   ところが会場が新潟市なのです。子どもが小さいこともあり、できれば近くて行きやすいところが良かったのですが、とても遠いです。そうなると学会が始まる前日から行き、3日間の学会が終わった翌日に帰ることになるので、計5日間家をあけることになります。できるだけ早く帰ろうと学会プログラムができるのを待っていたのですが、8000人以上が参加する学会だけあって、飛行機も満員状態です。乗れる便が早朝の便しか残っておらず、結局よけいに長く家をあけないといけなくなりました。
   新潟市を含め、東北の日本海側には行ったことがありません。新しい場所に行くときにはだいたい楽しみなのですが、今回はなぜか気乗りがしませんでした。僕が好きで新潟に縁がある文化人がいないのも一因かもしれませんが、なぜかなかなか新潟市について調べることもしなかったのです。そのまま出発の朝になってしまいました。
   朝に携帯電話を見ると、ゆうべ美紗さんからメールが来ていました。なんと新潟で地震があったそうです。津波のおそれもあるとのことです。飛行機がちゃんと飛んでくれたらいいがと少し心配になりました。
   さらに偶然なのですが、鹿児島空港から飛行機が出発するときに、アナウンスが入りました。前の便に鳥が衝突したらしく、滑走路を点検するので、いったん離陸をやめて戻りますとのことです。結局はしばらくして離陸できたのですが、これもまた不吉な出来事でした。ですが変なのですが、不吉な出来事があることでやる気が湧いてきました。
   大阪経由で新潟に順調に飛行機はつきました。どんよりとした曇り空で、シトシト雨が降っています。日本海側の冬にはどんよりとした天気が多いと聞いたことがあります。空港バスで市内に向かったのですが、道幅が広く、ガランとした雰囲気があります。ドイツ映画に描かれていた冬の港町を思い出しました。木々の様子を見ても、九州よりもずいぶん寒そうです。緯度が違うので気候が違って当たり前なのですが、異国に来たような感じがしました。
   新潟駅前のビジネスホテルから、まずは会場である「朱鷺(とき)メッセ」まで歩いてみることにしました。裏道を通ったせいもありますが、シャッター街が目立ちました。もともとは駅前の商店街が中心地だったのでしょうが、おそらく郊外の大規模店舗にお客さんが移っていったのでしょう。新潟に限りませんが、以前の中心地の再活用が求められています。
   30分ほどで朱鷺メッセにたどり着きました。次に美紗さんと約束していた「新潟市水族館 マリンピア日本海」に行きました。ここで子どもたちのおみやげを買うように頼まれていたのです。マリンピア日本海は地元の海や川の魚の展示と、世界の魚の展示の両方をしようとする展示であり、学術的な内容になっていました。いちばん印象的だったのは地域の海の展示で、海藻や岩の様子や魚の種類が鹿児島とはずいぶん違うんだなと思いました。信濃川と阿賀野川という大きな2つの川の河口にあたり、川と海のつなぎ目であるのが新潟市の地理的な特徴のようです。
   時間があったので、水族館でポスターを見つけた「新潟県立万代島(ばんだいじま)美術館」に行ってみました。現代美術の展覧会「コレナニ?!びじゅつ    アートいろいろ 見かたイロイロ」でした。現代美術でも古典芸術と変わらず、この世界や生きている経験そのものを、既成概念を取り払った形で提示しようとしていると感じました。僕がいいなと思ったのは「山水(さんすい)ーくずるる2」(伊藤彬)という作品でしたが、描かれているすすきの野原は不気味です。生きていることと死んでいること、気持ちよさと不快さ、健康なことと腐敗することといった両極のどちらでもない姿が描かれています。ふだんは生きていることをあまり意識しませんが、例えば他の生き物を食べないと人が生きられないことをとっても、かなり不気味なことなのでしょう。
   最後に夕食を食べることにしましたが、お腹がまだあまり減っていません。レストランに入ろうかと迷ううちに、駅の一角のスーパーのようなところが目に入りました。デパートの地下の食品売り場のような感じで、お惣菜コーナーがごった返しています。タクシーの運転手さんが言っていた「新潟は食べ物が新鮮でおいしく、水もおいしい。お酒もうまい」ということが思い出されました。海の幸と山の幸とお米のすべてが手に入りやすいんですね。「ホタテ貝入り切り干し大根」「カニしんじょ」といったお惣菜を買いましたが、たしかに何を食べてもおいしいと思いました。おいしいごはんを食べたのもあって、明日からの学会への意欲が高まっていきました。

 

写真1   駅のそばの商店街はシャッター街になってしまっている。

 

写真2   会場である「朱鷺(とき)メッセ」のビル。高いので街のあちこちから見える。

 

写真3   「新潟市水族館 マリンピア日本海」の入り口。小さそうだがなかはすごく広い。

 

写真4   日本海の岩場の特徴や海の様子も展示されている。干満の差が小さかったり、夏と冬の水位が違うために、岩場の上の方にはフジツボなどが少ないのだそうだ。

 

写真5   人懐こいビーバーも展示されていた。

 

写真6   「新潟県立万代島(ばんだいじま)美術館」の展覧会「コレナニ?!びじゅつ    アートいろいろ 見かたイロイロ」のチラシ。既成概念を取り払うと、生きていることはそれ自体が不気味だ。

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新潟の精神神経学会に参加する2 2019年6月20日(木)

   以下は精神神経学会で取った僕のノートです。発表者の名前も書かせていただいていますが、僕の聞き取りは正確ではありませんので、文責は僕にあります。

●シンポジウム「認知症とてんかんにおける記憶障害を探る」(司会:渡辺雅子、田中晋)
◎高齢者てんかんをめぐって(吉野相英)
・65歳を過ぎるとてんかんの発症率が高くなる。特に側頭葉てんかんが多い。
・原因は脳血管障害がいちばん多い。一方原因がわからないものも25%ある。
・高齢者ではけいれんのない発作が大半。突然動作が止まり一点を凝視したり、記憶が抜けたりする。自動症もあることあり。
・発作は1分ほどのことが多く、そのあとにもうろう状態になることがよくある。また発作後に集中・記銘力・見当識などが一過性に低下することが6割でみられ、認知症と間違われやすい。抑うつ症状を呈するものも2〜3割あり。
・鑑別すべき疾患は若年者の場合よりも多い。神経調節性失神が特に多い。
・レム睡眠行動障害では27%に脳波で鋭波が出てしまうので鑑別が難しいことがある。
・副作用も出やすい。
・高齢者てんかんの注意すべきケースとして、一過性健忘を呈する人もいる。
・非けいれん性てんかん重積もある。
・少量の抗てんかん薬で抑制できることが多い。ラモトリギン、レベチラセタム、カルバマゼピンなどが使われる。
◎認知症における記憶障害(數井裕光)
・アルツハイマー病においてはエピソード記憶の障害が多くの場合初発症状である。記憶障害は緩徐進行性であり、過去に延伸していく。
・記憶障害の自覚はゝ憶障害が強い、¬兪曚ある、ときに低下している。
・扁桃体の体積が大きいほどエピソード記憶が保たれる。
・若年性アルツハイマー病にてんかんの合併が多い可能性あり。
◎認知機能とてんかん性放電(塩崎一昌)
・横浜市総合保健医療センターに記憶障害を主訴として来院した人のうち、てんかんは1%だった(アルツハイマー病47%、軽度認知障害29%、血管性認知症3%、レビー小体型認知症3%、前頭側頭型認知症2%)。てんかんを合併が疑われるケースは5%だった。
・焦点意識減損発作がほとんどだった。
・てんかん性放電があると、精神症状を伴いやすい。
・てんかん性放電のあるアルツハイマー病の方が、ない場合よりも認知機能低下が早く進行する。
・抗てんかん薬での治療が、てんかん性放電で抑えられた認知機能を回復する可能性がある。
◎てんかん性健忘と認知症(鵜飼克行)
・一過性てんかん性健忘は中〜高齢者に初発し健忘発作を主症状とする側頭葉てんかんの特殊型である。
・一過性てんかん性健忘には焦点意識保持発作のものもあると推測される。またレビー小体型認知症と関連がある可能性がある。

●シンポジウム「てんかんと精神医療の新たな連携の形」(司会:山田了士、和田健)
◎てんかん外科と精神医療の連携
・一般にてんかんは第一選択薬で47%抑制され、第二選択薬で13%抑制される。しかし第三選択薬で抑制されるのは1%のみであり、2剤併用でも3%のみである。よって第二選択薬で抑制されない場合に診断を再検討し、難治性てんかんである場合には外科治療が検討される。
・海馬硬化症を伴う側頭葉てんかんの場合、内服薬のみでは1年後に発作を抑制できたのは8%だけであったが、外科治療では58%抑制できた。
・外科治療の術前から術後2年の間に精神障害の診断がつくのが4割。術後精神障害の予測は現時点では難しい。
◎「小児科と精神科の医療連携:てんかんのトランジション」(谷口豪)
・小児期のてんかんのうち50〜60%は小児期に寛解する。しかし40〜50%は成人になってからもフォローアップが必要。
・小児科のてんかん患者の多くは成人になっても小児科に通院している。そして小児科医が診療にいちばん困難さを感じているのが精神・心理的な合併症である。
・発表者の外来では、小児科からのトランジションがなされるケースは知的障害や発達障害を合併しているケースが多い。また発作以外にも複数の問題を持っているケースが多い。
●「精神科医療からてんかん医療へ〜てんかんと脳波を知っておく重要性〜」(渡邊さつき)
・てんかんや脳波の知識は鑑別を行ううえで役立つ。例えば,討鵑ん発作として精神症状が存在するケース。⊂播脆作、非けいれん性てんかん重積。睡眠や解離症。
・てんかんの約30%が精神症状を持つ。てんかんに伴う精神症状としては、デジャブ、メジャブ、幻視、幻聴、錯視、恐怖感、体外離脱、抑うつ感、恍惚感、笑い発作などがある。
・てんかん発作を疑う状況としては、〇続時間が短い、突然始まり突然終わる、A覆┐詁睛討毎回一定、がある。
・てんかんの2%に起こる発作後精神病では、発作後の数日間は症状がなく、そのあとに幻覚・妄想・情動変化が出てくる。

●シンポジウム「精神・発達障害者の就労支援に関わる精神科医(主治医・産業医)の必須アイテム」(司会:神山昭男、奥山真司)
◎「働き方改革とこれからのメンタルヘルス対策」(神ノ田昌博)
・今後は産業医のネットワーク化が必要では?産業医には産業保健活動のリーダーとしての役割に求められる。
◎「労働者の適性を重視した就労支援」(渡辺洋一郎)
・労働者の適性にあった仕事内容にしたり、働きやすい職場環境を作ることは、労働者の健康やパフォーマンスの向上につながり、結果的に事業所の業績向上につながる。
・休職者の復職先についても、本人の適性を把握したうえで、慎重に考える。
・「厚労省編 一般職業適性検査」が有用。
◎「嘱託産業医の立場から」(森口次郎)
・以前は産業医は就業規則を拠りどころにしてきたため、「休職事由がなくなったときに復職」というのが基本的な考えだった。しかしメンタルヘルス問題・難病・がんなどを抱える労働者の支援しようとすると、この考え方では十分に対応できない。
・合理的配慮は大まかには以下の3タイプになる。(理的環境への配慮(サングラスの使用、昇降機の設置)。意思疎通の配慮(私事を図示する)。ルール・慣行の柔軟な変更(放射線治療のための時間有休取得)。
・合理的配慮を行うときには、以下の流れをたどる。〇業者が障害労働者とよく話し合う。個別は障壁を把握する。事業者自身の負担とすり合わせながら、合意に至る。

●ワークショップ「脳波の基礎コース」(司会:山内俊雄、矢部博興)
◎「どんなときに脳波検査を考えるか」(山内俊雄)
・脳波検査を考えるのは、以下のような状況のときである。[彎仮評の理解に苦しんだとき。意識の障害が疑われるとき。N彎仮評のよりよい理解のために。た臾桶仞奪螢坤爐陵解のために。イ討鵑んなど脳波の異常が知られているとき。
・脳波の基礎律動は意識障害の程度を反映する。
・脳波は脳の機能を把握する鋭敏な検査である。
◎「臨床脳波の基礎知識」(矢部博興)
・単極誘導では「耳朶(じだ)の活性化」の問題が起こることがある。初学者は平均基準電極法で判読する方が間違いにくい。
・てんかん発作を起こす人で、初回脳波で発作波が見つかるのは50%。何回取っても最大で90%の確率でしか見つからない。
・逆に発作波があっても発作がでない人もいる。
・発作波が脳腫瘍のサインであることもある。
・脳波上の「成人」は25歳。それまでは後頭部に遅い波が混じる。
◎「脳波判読時に注意すべきこと」(渡邊さつき)
・初学者にありがちなこととして、,△譴發海譴瞼波に見える、低振幅の徐波の見落とし、がある。
・背景活動と棘波を区別するには、〜宛紊力続性を見る、⇔戮療填砲稜鳩舛噺比べる、棘波の基本形と比べる、が大事。
・ハンプを棘波と間違えないように気をつける。頭頂部に優位、両側性。
・筋電図アーチファクト。上行線と下行線がくっついている、振幅がバラバラ。
・電位には勾配がある。1つの電極だけで発作波が出るのはおかしい。
・迷ったときには専門医に紹介する。
・異常所見は再現性が大事。
・発作症状なしにてんかんの診断はできない。
◎「てんかん脳波の基礎」(原恵子)
・てんかんの脳波は変化するものである。
・精神科医が診断するのは、特発性全般てんかんと、症候性局在関連てんかんの2グループ。
・特発性全般てんかんには、ー稠欠神てんかん、⊆稠ミオクロニーてんかん、A竿牟直間代発作のみを示すてんかん、などが含まれる。
・局在関連てんかんの発作波は以下の特徴がある。.皀鵐拭璽献紊鯤僂┐討皸貭蠅任△襦↓2つ以上の電極を巻き込み、電位勾配を示す、再現性をもって繰り返し出現する、いれいなサイン波ではない。
・臨床症状を詳しく聞けばてんかんの発作型とてんかん症候群はほぼわかることが多い。一方で脳波なしには区別できない場合もある。仝部自動症+意識減損のケースで、側頭葉てんかんなのか若年欠神てんかんなのか?∈険差がある上肢の動きがあるケースで、局在関連てんかんなのか若年ミオクロニーてんかんなのか?A歓箸韻い譴鵑里澆鮗┐好院璽垢如⊂標性局在関連てんかんなのか特発性全般てんかんなのか?
・欠神てんかんは脳波所見が病勢を反映する。
・若年ミオクロニーてんかんでは、未治療の場合8割ぐらいが発作間欠期てんかん性異常波を呈する。光刺激に過敏性あり。発作を抑制しても断薬で発作再発率9割。
◎「非てんかん脳波の基礎」(太田克也)
・脳波判読のためには、まずは波を好きになることが大事。
・報告書を作成し、指導を受けることが大事。

 

写真1   学会会場である「朱鷺(とき)メッセ」の隣には信濃川が流れている。すぐそこが日本海への河口である。

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新潟の精神神経学会に参加する3 2019年6月21日(金)

   以下は精神神経学会の2日目と3日目で取った僕のノートです。発表者の名前も書かせていただいていますが、僕の聞き取りは正確ではありませんので、文責は僕にあります。またあくまでも僕が関心を持ったところだけを記録しています。

●シンポジウム「ポジティブ精神医学の産業メンタルヘルスへの応用」(司会:大野裕、三村將)
◎ポジティブ精神医学的視点が企業や地域にもたらすもの(佐久間啓)
・精神科医療の実践をさらに広げて豊かな地域社会を作ることを目指している。
・医療施設・福祉施設に加えて、農場・レストラン・美術館なども作っている。
◎ポジティブ精神医学を活用した産業界におけるメンタルヘルス向上(須賀英道)
・精神科医は原因追求視点に傾きがち。今後は健康創生的な視点を持つ必要がある。
・働きがいとは、活力と熱意を持って仕事に没頭でき、仕事に誇りを持てること。
・モチベーションの向上が行動変容につながり、評価を受けることでさらにモチベーションが高まるという好循環を目指して介入する。
◎企業におけるメンタルヘルスプロモーションの現状と健康経営におけるポジティブメンタルヘルス(奥山真司)
・従来は職場環境の安全と身体面の健康が強調されてきた。それに加えてさらに幸福感の醸成まで目指している。
・幸福感の醸成は統制的なアプローチでは難しい。ー発的な相談、△△訥度自律的な教育、自主的な風土、を職場に定着させていくことが必要。

●シンポジウム「ASDとADHDの臨床的特徴と鑑別診断」(司会:岩波明、柏淳)
◎「小児期のASDとADHDの臨床的特徴と鑑別診断」(横山冨士男)
・ASDとADHDには似たような状態を呈しやすい。両方ともに全体を把握するのが苦手である。
・対人交流の面では、ADHDは広く浅い関係で表面的になりやすい。ASDでは好き嫌いが激しく、共通の興味を介して仲間を作ることがある一方で、他者です視点を持ちにくい。

●ワークショップ「脳波の応用コース」(司会:山内俊雄、矢部博興)
◎臨床脳波の持つ限界と解決法(山内俊雄)
・脳波では期待した異常波が出ずにがっかりすることも多い。理由としては以下のものがある。’承’修変動するため、タイミングが合わないと異常波が見つからない。脳機能の異常がまれにしか脳波に反映されない病気だから。F皮上脳波では拾える異常が限られているから。
・脳波の波形から診断がつくことはまれである。脳波は脳機能の一面を見ているに過ぎない。また脳の全体ではなく限られた領域の状態を表している。
・対策として以下のものがある。‐評から脳機能障害を疑ったらすぐに脳波を取る。1回だけでなく繰り返し取る。7于瓩鯆匹Δ海箸埜えてくることがある。の彎仮評と突き合わせることで脳波の意義が高まる。ド螻菲,魍萢僂垢襦β召諒法を検討する(長時間脳波、ビデオ脳波、頭蓋内脳波)。
◎「非てんかんの脳波」(太田克也)
・軽い意識障害でも脳波はよく反映する。
・昏迷では意識清明のときの脳波。
・意識障害が重くなるにつれて基礎律動が徐波化する。
・認知症では初期は脳波異常は目立たない。
◎「てんかんの脳波について」(原恵子)
・30歳以降の初発の多くは局在関連てんかん。そのうち半分が側頭葉てんかんであり、高齢者での初発に限れば7割が側頭葉てんかんである。
・側頭葉てんかんは4〜16歳での発症が多い。
・側頭葉てんかんを疑うときには必ず睡眠脳波を取る必要がある。90%以上でF7かF8に最大点がある。双極誘導ではF7かF8で位相の逆転がある。ときに側頭部に徐波がみられる。欠神てんかんとの鑑別のために過呼吸賦活は4分行う。
・初回脳波でてんかん性放電が見つかるのが30〜50%。数回繰り返して80〜90%にまで高まる。迷ったら再度脳波を行う。
◎「長時間ビデオ脳波記録」(渡邊さつき)
・目的には以下のものがある。,討鵑んの発作や分類の検討。⊂播隻位の推定。てんかんと非てんかんの鑑別。
・限界としては以下のものがある。“作頻度が低いと行えないことがある。記録する数日から1週間の間に発作が起こることが予想されるなら行える。
・発作時脳波の典型的な特徴としては、進展がみられることがある。発作焦点から、/局が増え周波数が減る形での進展、他領域への進展、が起こる。
・前頭葉てんかんの特徴には、/臾加罎傍きやすい、∋続が短い、0貳佞鵬薪戮盞り返す、がある。
・心因性非てんかん発作の特徴には、“作時に閉眼、▲ぅ筌ぅ笋垢襪茲Δ兵鵑瞭阿、上半身と下半身の動きが同期しない、て阿の変動が大きい、セ続が長い、がある。

●シンポジウム「昨今の産業衛生のトピックスとメンタルヘルス的視点」(司会:工藤喬、渡辺洋一郎)
◎「『働き方改革』における精神科産業医の役割と課題」(小山文彦)
・職場のメンタルヘルス問題の支援にあたっては、情報共有が大事である。内容としては、^絣愿な症状、勤労状況のアセスメント、生活状況のアセスメント、せ業所側の懸念のアセスメント、がある。
・職員面接とその前後のミーティング(産業医・保健師・人事労務)で連携をはかることが大事。
・不調の原因として職場外の要因にも注意する。
◎「健康経営に関する精神科医の役割」(田中克俊)
・精神疾患は大きな生産性の低下をもたらす。勤務できないことによる労働損失率は、うつ病28%、気分変調症14%、併存22%。
・出勤できても生産性が落ちてしまうことによる悪影響はずっと大きい。うつ病やアルコール使用障害は11〜12%の低下。
・睡眠不足は注意力を低下させ、ミスを起きやすくする。予防のために、睡眠衛生の指導が行われている事業所もある。
・インターネットを利用した認知行動療法も効果的である。
◎「『障害者就労』における精神科産業医の役割と課題」(神山昭男)
・身体障害者の雇用が義務化されたのは1960年。知的障害者は1998年。精神障害者はやっと2018年に義務化された。
・ハローワークを通しての障害者就労では、精神障害者の割合が増えている。
・しかし定着率は65%程度と高くなく、50人以下の事業所ではさらに低い。定着率は発達障害>知的障害>身体障害>精神障害であり、精神障害がもっとも低い。
・また障害者求人>一般求人の障害開示>一般求人の障害非開示の順に定着率が低くなる。
・地域の支援機関と連携した方が定着率がよくなる。
・産業医の支援の例には以下のものがある。
・労務管理については、ともかく出勤できることを第一の目標とする。作業はシンプルで直列。45〜60分ごとに休憩を15分取る。定期的に席替えをする。病状が悪化しないように勤務時間を最適に。業務に個人差があってもよしとする。教育にはゲーム感覚を取り入れる。
・健康管理についてはセルフケアを基本とする。定期面談で生活指導を行う。心身両面を包括的にケアする。集団や個人の教育を業務時間に組み込む。 
◎「『労災医療』における主治医と精神科産業医の役割と課題」(黒木宣夫)
・精神障害(自殺ではない)の労災認定が増えてきている。
・顧客からのクレーム・退職強要・配置転換・嫌がらせ・いじめ・上司とのトラブルでは認められにくい。
・主治医の立場でも、産業医の立場でも、労災請求には全面的に協力するのがよい。しかし労災請求をすることで本人と企業の関係が悪化してしまうケースもあるので、よく考える必要がある。

●シンポジウム「精神科医は強度行動障害に何ができるか?」(司会:市川宏伸、會田千恵)
◎「精神科医は強度行動障害に何ができるか?」(市川宏伸)
・知的障害者入所施設には、実際には自閉スペクトラム症と知的障害をあわせ持つ人が多く入所している。
・異食・常同行動・自傷などがみられることがあり、ケアが難しい。
・「強度行動障害」は、もともとは福祉・療育から出てきた概念である。
・強度行動障害を持つ人は、以前は長期入院になってしまっていた。
・以前は福祉側には医療との連携に消極的な面があった。医療側には福祉現場への理解不足があった。
◎「精神科医が強度行動障害にできることを『行動』の視点から考える」(會田千恵)
・重い強度行動障害を持つ人は全国で8000人程度と推測されている。
・精神科病院への入院治療でできること。ゞ杁淅鯑馘な本人の保護。家族や施設スタッフのレスパイト。8〆困箙堝鮎祿欧良床繊ぬ物調整。イ海世錣蟾堝阿箙堝鮎祿欧離螢札奪函行動療法や構造化による介入。
・心理社会的な介入が第一選択。行動療法・コミュニケーション指導・地域支援機関との連携が有効。今後は非薬物療法を多くして、薬物療法と行動制限を適正化していく必要がある。
◎「精神科医が出来ること〜福祉施設における役割〜」(田中恭子)
・福祉施設は2つの問題に直面している。ゞ度行動障害。入所者の高齢化。
・入所者の入院理由はイレウスと肺炎が多い。しかし強度行動障害のために十分に医療機関に受け入れてもらえない面がある。
◎指定発言 (井上雅彦)
・重度や最重度の知的障害を持つ人の10〜20%に強度行動障害がある。
・スタッフのバーンアウトやいらだちにつながりやすい。
・隔離室などで刺激を減らすだけでは、望ましい行動の獲得にはつながらない。
・問題行動を客観的に記録できるようにツールを工夫する余地がある。
・強度行動障害のリスクファクターには、ー閉スペクトラム症+重度の知的障害、△海世錣蟾堝阿龍さ、2板躊超など環境面の課題、がある。リスクの高いケースには、早期からの継続的な支援が必要。

●シンポジウム「発達障害とてんかん:各診療科の立場から」(司会:曾根大地、谷口豪)
◎「発達障害とてんかん:成人てんかん科の立場から」(曾根大地)
・てんかんと発達障害は合併しやすい。
・てんかん外来では発達障害が過小評価されている面があるかもしれない。
・合併例では、てんかん単独とは違う課題が出てきやすい。)椰佑ら情報を得にくい。意識減損の発見が難しい。精神症状との区別がより難しい。だ人の診療科へのトランジションが難しい。
◎「発達障害とてんかんー成人発達専門外来診療医の立場からー」(中岡健太郎)
・自閉スペクトラム症とてんかんの合併率は報告によって差が大きい。幼児よりも児童思春期の方が合併率が高い。
・合併のリスクファクターには、|療障害(重くなるほど合併しやすくなる)、⊇性、症候性の自閉スペクトラム症である(遺伝子異常などの背景疾患がある)。
◎「てんかんの外科治療と認知発達機能への影響」(岩崎真樹)
・てんかん外科には根治手術と緩和手術がある。
・根治手術になるのは、ヽで蝋轍従鼻↓脳腫瘍、H藜膳狙障害、のケースが多い。
・てんかんのうちの約30%が薬剤抵抗性てんかんである。薬剤抵抗性てんかんのリスクファクターには、”分てんかん、高い発作頻度、D垢へ輊卒間、がある。
・海馬切除術を行っても、記名力は変わらない人が多く、一部に改善や悪化する人もいる。
・乳幼児の手術は片側巨脳症にたいしてのものが多い。
◎「神経発達症と小児てんかん」(中川栄二)
・神経発達の点からは、神経回路が形成される9〜10歳までにてんかん発作を抑制できるかがポイントになる。子どもの脳には大きな可塑性と代償性がある。なるべく早いうちに神経回路を再構築するのが大事である。
・てんかんの発症後にADHD特性が目立ってくるケースもある。

●シンポジウム「精神疾患の背後に発達障害特性を見いだしたとき、いかに治療すべきか」(司会:岡田俊、小平雅基)
◎「発達障害における強迫性と発達障害を背景とする強迫症状」(小平雅基)
・強迫性にはADHD・チック症・トゥレット症の合併が多い。
・認知行動療法の導入が難しいケースもある。また自閉スペクトラム症では感情に焦点を当てるのが苦手な子どもが多い。そこで以下のような工夫をしている。/搬隆恭个陵彖任鯱誕蠅砲垢襦陰性感情を持つことに対して肯定的に話す。4蕎霰聴のためのツールを活用する。
◎「発達障害に伴う不安と発達障害を基盤とする表現型としての不安症」(岡田俊)
・自閉スペクトラム症では不安が強い。例えば以下のものがある。/佑里泙覆兇靴琉嫐がわからない不安。∩蠎蠅良従陲箙堝阿琉嫂泙感じられない不安。これから起こる出来事が予測できない不安。せ廚い鬚Δ泙伝えられない不安。イ靴辰りしない社会的状況におかれる不安。
・ADHDでも不安が強い。ー分の行動や感情を制御できない不安。⊆分の望む関係性を自分で壊してしまう不安。失敗を重ねてしまう不安。ぬ榲に向けて順序立てて行動できない不安。
・特性が育ちに与える悪影響もある。〕椣藜圓隼劼匹發隆愀言。⊃搬料の発達。B亟超の関係性。っ膣峇愀検
・エリクソンの発達課題のうちして青年期までの課題を乗り越えられていない子どもも多い。
・社交不安症や選択制緘黙は背景に自閉スペクトラム症があることが多い。
◎「発達障害を有する患者のトラウマ関連症状」(岩垂喜貴)
・トラウマに暴露されたあとにも、他者との愛着があれば予後は良好である。しかし発達症の子どもは愛着関係を持つのが苦手な面があり、トラウマ後の症状も重くなりやすい。
・安全基地の確保と愛着形成の促進が治療の目標である。かわいいなと思えるようになったときに治療は進展する。
・治療の構造化と治療チームの生き残りが成功すると、子どもは抑うつ・不安・外傷体験の振り返りができるようになっていく。
・別れをていねいに扱うことが大切である。

 

写真1   新潟市美術館。「インポッシブル・アーキテクチャー」という企画展が開催されていた。実現しなかった建築の構想が集められていた。たしかに芸術は「できあがったもの」よりも「できあがらなかったもの」のなかにあるのかもしれない。

 

写真2   美術館の隣の公園には良寛の像があった。新潟県の人だったようだ。

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2019年6月日録1

6/2(日)   美紗さんの親族の法事に出るために、家族で鹿児島に出かけた。めったに顔を合わせない人たちが何人もいたせいか、子どもたちの興奮がすごかった。特に読経のときと、食事会のときがピークで、3人で大声を出したり走り回っていた。お行儀はきわめて悪かったが、「こんなに活発になれるんだ」とうれしくも思った。普段は見ることがないパワーを子どもたちは秘めている。未来の世代の成長を促しながら、人生のバトンは引き継がれるのだろう。
6/3(月)   響が通っている療育施設の方からトランポリンの購入を勧められ、美紗さんが小さなものを買った。子どもたちが楽しむのかはわからなかったが、さっそく競争して跳び出した。つられて僕もはねてみたが、両肩が揺さぶられるせいか肩こりに効く。首から肩にかけて「こなきじじい」のように重たい感覚があるが、ほぐされると感じた。子どもたちよりもむしろ僕に必要な運動だ。
6/4(火)   発達症の親の会である「くまっこくらぶ」に参加した。発達症の子どもを持つ親が集まって話す場だが、保健師や療育関係者も参加されていた。親は日々の生活のなかでさまざまなストレスを抱える。それは同じ立場の親だからこそ受け止められる面がある。長年続けてこられていることに敬意を感じた。
6/5(水)   成人の引きこもりの相談を受けた。いったん長期化するとなかなか変えるのが難しい。また生活習慣の問題は薬だけでの改善が難しく、通所・入所・入院などで環境を変えることが必要になる。いかに早いうちから介入するかが大事なのだが、地域で相談を受ける体制は十分ではない。市町村の保健師さんを精神科医がバックアップする形での支援を普及させることが重要だ。

 

写真1   トランポリンをする響。100回跳ぶのもできた。

 

写真2   ジグモの巣を取ろうとする響。

 

写真3   つかまえたジグモを手に乗せる。

 

写真4   「くまっこくらぶ」が開かれたおこば保育園。多目的に活用できるスペースも作ってあるそうだ。

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