日中は僕は仕事でした。長男の響(8歳)の親友のAくんが遊びに来てくれて、子どもたちは1日中遊んでいました。夕方になり、僕が帰ってくると、ちょうどAくんが帰るところでした。「お祭り状態」だったようで、家のなかは散らかっており、みんな疲れきっていました。いまから夕食の準備をできる状態ではなかったので、「夕食を食べに行って、温泉にも入ろう」と出かけました。「モスバーガー」で夕食は食べれたのですが、温泉は超満員で、自宅でお風呂に入ることにして、結局は帰ってきました。
まだ興奮が冷めやらなかったようで、長女のやすみ(11歳)が居間で、「いまから授業をします」と言いました。僕は「長くなりそうだ・・・しばらくすればやめるだろう」と思って、「着替えてトイレに行くから」と言って、その場を離れました。ですが、しばらくすると、やすみがトイレまで僕を呼びにきました。本気で授業をしたかったようです。美紗さんも聞くように言われています。家族全員で、やすみの授業を受けることになりました。
授業が始まりました。やすみは3冊の本を持ってきていましたが、選んだのは、『小学館の図鑑 NEOアート 図解 はじめての絵画』(小学館、2023年)でした。そのなかのレオナルド・ダヴィンチの作品「モナ・リザ」についてのページを開き、「モナ・リザのすごさについての授業をします」と言いました。
ところが、「モナ・リザは、当時の他の画家の作品と違って、より人間らしい表情を描きました・・・」と言っただけで、あとが続かず、そもそもやすみ自身も、モナ・リザのすごさがわかっていないようでした。そこで「本の全部を話すのは無理だから、自分でおもしろいと思うところを選んで、そこについて詳しく読んで、その上で大事だと思うところだけを話すんだよ」「よく準備して臨まないと、講演は失敗するよ」と僕が言いました。やすみは落ち込んで、泣きそうになって、体を床に伏せてしまいました。
次女のしずく(5歳)は、何についてでも。すぐに姉のやすみに対抗します。自分も「絵本を読みます」と言って、絵本を2冊持ってきました。選んだのは、『パンダ銭湯』(作:tupera tupera、絵本館、2013年)です。パンダが黒い模様を脱いで銭湯に入るという、意外性たっぷりな作品で、まさに絵本でしか出せないおもしろさがあります。しずくは、まだひらがなを1文字1文字たどりながら読むような状態ですが、「うん」とか「わーい」とか、読みやすいところは表情たっぷりに読んでいます。演じるパフォーマンスが得意なようです。つっかえつっかえ、なんとか1冊読みきれたので、拍手をしました。
長男の響(8歳)も対抗します。「僕はなぞなぞの本を読みます」と言って、『なぞなぞMAXチャレンジ!3000問』(著者:嵩瀬ひろし、新星出版社、2017年)を持ってきました。「2987問、70センチメートルのきのこと、1メートルのきのこ。どくきのこは、どっちかな?」。いくらみんなで考えても、わかりません。答えは「1メートル → 一命を取る」ということで、1メートルのきのこでした。他にも2問、響は出したのですが、家族みんなで考えてもわかりませんでした。響の問題のチョイスは、聞き手には難しすぎたようです。
そうこうしているうちに、長女のやすみが、もう一回授業をすると言いました。選んだ絵はエッシャーの「滝」です。滝を落ちたはずの水が、流れ下りながら、いつの間にか滝に帰って来ているという「無限ループ」の絵で、上下や重力といった「当たり前のこと」が、絵のなかで歪められています。しかもそれをこちらは自然に受け取ってしまうのです。
絵を掲げながら、震えるような声で、やすみは話しました。「この作品を見ていると、何も考えずに頭が吸い込まれて、不思議な気持ちになります。みんなにも、その不思議な気持ちを味わってほしいです」と話しました。僕は拍手をしました。そしてその後に、シュールレアリストであり、トリックアートの元祖でもあるような、エッシャー、ダリ、マグリットなどについての動画を見ました。
子どもたちは興味を持つと、急に動きます。全く予期せぬ展開でしたが、プレゼンテーションの練習になったのでした。やすみは自分の興味のアンテナを掘り下げるのが上手です。響は独自のペースで自分流のやり方で進んでいけます。しずくはコミュニケーションにたけていて、まわりの反応を見ながら表現できます。3人3様で、競いあっています。「なんでこんなに競争ばっかりするんだろう?」と思いますが、互いの個性を鍛えあっているのでしょう。自分の性質に深く根差した活動でしか、世界を動かすことはできないからです。
写真1 『小学館の図鑑 NEOアート 図解 はじめての絵画』(小学館、2023年)。絵画表現の歴史や技法や、さらには自分で創作する楽しみまで含んだ広大な内容で、美しい写真で作品に見入ってしまう。やすみが以前買って好んでいるものだ。
写真2 『パンダ銭湯』(作:tupera tupera、絵本館、2013年)。パンダがお風呂に入る様子が意外過ぎてびっくりする。まさに絵本ならではの世界だ。
写真3 『なぞなぞMAXチャレンジ!3000問』(著者:嵩瀬ひろし、新星出版社、2017年)。響がだいぶ以前になぞなぞにハマっていた時期があり、そのときに買ったものだ。ほとんどの問題を響が出してきたり、僕が出したりした。頭の固い僕には難しいものが多い。
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