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外傷体験のある人の治療や支援について 2019年7月13日(土)

   精神科で診療していると、子どもでも大人でも外傷体験を受けて育ってきた人たちとよく関わります。明らかな虐待を受けてきた人から、明らかではなくても家族の課題がいろいろあり、幼少期から非常に気を使って生きてきた人までを含みます。外傷体験がさまざまな精神疾患だけでなく、行動の問題(依存症など)や対人関係の問題、身体疾患などまで起こしやすくするというのが近年わかってきています。
   外傷体験が重度である人の治療はもちろん難しいです。決定打となるような治療はいまのところまだないと思いますので、年単位で焦らずにサポートしていくことが求められます。ですがもっと難しいのは、本人も周囲も外傷体験を認識していない場合です。はっきりした外傷体験があることが事前にわかっていればこちらもそのつもりで臨みますし、ある程度「関係がこじれても驚かない」という心づもりがあります。ところが治療を受けている本人ではなく、実は家族が外傷体験のある人であったりすると、こちらにそのつもりがないので、治療の見立てを間違ってしまうことが多いです。あとになって「実は支援をいちばん必要としていたのはこの人だったんだ」をわかることが多いのです。
   さらに複雑なのは、入院している患者さんどうしが影響しあって、ある人の外傷体験の後遺症が別の人にあらわれてくるような場合です。こうなると事前に予測することは難しく、治療中に「あれ?」「なんで?」という思いを繰り返しながら、気づいていくことになります。子どもは大人に比べて集団の相互作用が強く出る印象があります。そのぶん治療の流れも複雑になりやすいです。
   最近もそんな経験がありました。いままでは「この人が家族にいるせいで治療がうまくいかない」と思ってきた人が、「おそらく背景に外傷体験があり、いちばん支援を必要としている人だったんだ」と気づけたのです。ただ多くの場合にそうなのですが、こちらが痛い目にあわされるなかで気づく場合が多いです(泣)。良かれと思って支援しているその手を振り払われるようなことが多いのです。
   ここが外傷体験のある人の支援の難しいところで、最後まで円満な関係で進むことは少なく、途中に「対決」するような場面があったり、相手の嫌なことを伝えないといけなかったり、こちらの心が折られたり、こちらの思い通りにいかないことを受け入れないと前に進まないような場面があることが多いのです。設定した流れとおりに治療が進まないことが多く、せっかく取り決めてきた枠組みが崩れてしまうこともあります。
   つまりこちらが振り回されたり、悩んだり、困らされたり、いらだったり、なんらかの不愉快な経験をしないままにスムースに治療が進むことは期待しにくいのです。当たり前と言えば当たり前なのですが、外傷体験のある人は対人関係に困難さを抱くことが多く、回復もまた対人関係の揺れ動きのなかで進んでいきます。過度に信頼されたり、不信感を抱かれたりするので、治療する側は「振り回される」と感じてしまいます。ですが本人は辛い記憶を反復しながら徐々に記憶の質が変わっていくのに耐えているのですから、一貫していなくても当たり前なのでしょう。
   このプロセスは治療者と患者さんの間だけで進むものではありません。同僚との関わりのなかでも、ときどき「もしかして外傷体験があったんじゃないか?」と感じることがあります。科学的ではない言い方なのですが、その人になんらかの影やモヤモヤしたものがつきまとっているように感じるのです。あれこれやり取りをしながら、だんだんとその人がほっとしているのを感じられるようになっていきます。外傷体験が残すものとは絶えざる過度の緊張や不安であり、その回復とはホッとできることなのかもしれません。
   外傷体験の治療というのは、積極的に確実に狙ってできるものではなく、あれこれしているうちにいつしか成立しているという面があります。その意味では外傷体験のある人に少しでも関われることは、人生の幸運と呼ぶべきでしょう。治療者の役割とは相手の踏み台になることであり、治療者自身が幸せになることではありません。普段から自分の精神面の安定感を培い、精神の揺れに耐えられるしなやかさを持つことが、精神科スタッフとしての技量であり資質なのではないでしょうか。くつろげる雰囲気にこそ精神科治療の秘密があるのだと思います。

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