お休みどころ

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禁煙について 2019年6月15日(土)

   僕は禁煙についてはあまり関心がありませんでした。身近な家族に吸う人がいなかったこともあり、タバコのにおいは不快で嫌いでしたが、強制的な規制までは必要ないのではないかと思いました。僕はもともと「人の行動を規制し過ぎるのは良くない」と思っていますので、「個人個人の選択に任せておけばいいのではないか」と思ってきたのです。また「タバコ=悪」というのは決まりきった図式過ぎておもしろくないといった思いもありました。
   ただ精神科の病院で勤務していると、タバコのことで困らされることが多くあります。)椰諭Σ搬押Ε好織奪佞料蠱未1日の喫煙本数が決まっているのに、しつこくしつこく「もっと吸いたい」と要求する患者さんが多い。患者さんどうしでの「あげた」「もらった」といった水面下でのやり取りが多く、トラブルがよく起きる。ライターをこっそり持ち込んだり、吸い殻をポケットに入れてやけどをしたりする患者さんがあり、火事ややけどの危険性がある。い金がないのにタバコを買うため、経済的に破たんする。
   アルコールやギャンブルの依存症の患者さんたちと普段接していると、「欲望のコントロールがきかなくなって生活全体が壊れてしまう」プロセスを肌身で感じることができます。喫煙もやはりニコチン依存症なのだとよくわかります。理性でのコントロールがきかないところに特徴があるのです。
   僕が勤務している吉田病院では7月から敷地内禁煙を実施することになりました。また産業医をしている役場でも衛生委員会で議論して、屋内禁煙をすることになりました。そして役場の職員向けに禁煙についての産業医講演をするように依頼を受けました。
   引き受けたものの、僕は禁煙について学んだことがほとんどありませんでした。産業医の研修会で、大手企業で敷地内禁煙を実現した方のお話を聞くことはありました。禁煙は相当入念に緻密に段階を踏んで進めていかないと難しいという内容でした。学べそうなテキストをインターネットで検索すると、『禁煙学 改訂3版』(編著:日本禁煙学会、南山堂、2014年)が見つかりました。これを読んで講演をすることにしました。
   ところが読むなかで痛感したのですが、普段自分が実践していることでないことは、読書をしても時間がかかり、理解が浅くなり、身につきにくいです。精神科領域の相談や支援については普段から試行錯誤していますので、その経験をもとにテキストをいろんな角度から検討しながら読めます。ところがタバコの害については普段の積み重ねがないので、テキストに書かれていることを受け取ろうとすることだけで精一杯です。これでは実のある読書とは言えません。期限までにテキストを要約するのはギリギリでできましたが、本の内容をもとにあれこれ考えることはあまりできませんでした。
   とはいえわかったこともいろいろあります。『禁煙学』の内容を要約しながら以下に書いてみます。
  タバコの健康被害はあまりにも激しく、受動喫煙の被害も大きい。ともに有害物質を規制すべきかどうかを通常議論するレヴェルからかけ離れている。例としては家庭での受動喫煙の被害がある。データによれば、受動喫煙は1〜2割の人を早死にさせる。いわゆる先進国の環境行政では有害物質への暴露で死亡するリスクの許容限度を一生涯1万分の1(職業暴露)〜10万分の1(日常生活暴露)としているので、家庭での受動喫煙の害は環境基準を2万倍も上回っている。
  妊婦と子どもの喫煙や受動喫煙の害も深刻である。特に生まれた乳幼児が将来肥満・心血管疾患・高血圧・糖尿病になりやすくなるということには驚いた。また以下の事実にも恐怖を感じた。妊婦の喫煙本数が多いほど閉経・不妊・稀発月経・多毛になりやすい。喫煙は胎児発育を阻害するため、出生体重が200〜250gほど軽い。奇形・早産・乳幼児突然死症候群・呼吸器疾患・ADHDも起こりやすくなる。小児の誤飲事故ではタバコがもっとも多く、約半数が0歳児による誤飲。乳児はタバコ0.5〜1本が致死量である。
  ニコチンは法で規制されている他の依存性薬物(覚せい剤・コカイン・ヘロインなど)と何ら変わりがない。ニコチンの依存性は強く、依存症形成のリスクはタバコで77%で、コカイン(36%)・覚せい剤(24%)より高い。
  受動喫煙防止法を制定すれば、すみやかに心疾患での入院者数が減少する。職場・レストラン・飲食施設を完全禁煙とする法律を施行した国では、心臓病などによる入院率が速やかに2〜4割低下する。
  世界的には「タバコ規制枠組条約」(FCTC)が日本を含む180か国以上で批准されており、この条約に基づいて禁煙促進が行われている。受動喫煙防止法の制定、小・中・高校・大学での禁煙教育、タバコの値上げ、パッケージでの警告表示、タバコの広告・販売促進・スポンサー活動の包括的な禁止などがその例である。日本政府もFCTCを2004年に批准しているが、全く守っていない。
   予防医学と言うのはなかなか成果の出ない分野であり、確実に立証された健康増進の方法は少ないと思います。そんななかで禁煙は確実にかつ強力に人々の健康状態を改善することがわかっています。医療者としては力を入れるべき分野だと思いました。また精神科スタッフとしては、タバコを減らすだけでなく、依存症支援に努力すべきでしょう。僕個人は発達症の人たちの支援に取り組んでいますが、発達症はゲーム依存を含む依存症を合併しやすいです。発達症+依存症のケースへの支援に努力していきたいと思います。

 

写真1   『禁煙学 改訂3版』(編著:日本禁煙学会、南山堂、2014年)。大変内容の濃い本だが、読み通すのは大変だった。

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