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呉秀三の本を読む1 2019年5月6日(月)

   精神科スタッフであれば誰でも名前だけは知っているという人に「呉 秀三」(くれ しゅうぞう、1865〜1932、精神科の医師・研究者・教育者)がいます。日本の近代精神医学の土台を作った人で、治療・研究・教育・学会設立・制度設計など多方面に業績が渡っています。日本の精神科の歴史を学ぶと必ず出てくる人物です。
   その呉秀三の仕事のなかでももっとも有名なのが「私宅監置(したくかんち)」についての調査報告です。私宅監置とはいわゆる座敷牢のことで、自宅や離れの一角に木の檻を作り、患者を監禁したことを指します。当時の「精神病者監護法」のもとでは医師の診断書をもらったうえで警察に届けて手続きをすれば合法とされていました。呉は大学医局のスタッフを多数の県に派遣し、私宅監置の実態を調査するプロジェクトを進めました。その結果患者たちはあまりにも悲惨な状態で閉じ込められていて、しかも医療をほとんど受けられていないことが明らかになり、法制度を変える力になったのでした。
   実は僕は呉秀三の名前くらいしか知りませんでした。『現代語訳  呉秀三・樫田五郎 精神科私宅監置の実況及びその統計的観察』(訳・解説:金川秀雄、医学書院、2012年)を以前買いはしたのですが、ずっと読まないままでした。もしきっかけがなかったら、今後も読まないままだったでしょう。
   ところがきっかけが舞い込みました。呉秀三の映画『夜明け前』(監督:今井友樹、2019年、日本)ができ、その上映会をするので、映画を観る前に講演をしてほしいと依頼を受けたのです。映画のことは僕は知らなかったのですが、宣伝用の動画を見ると非常に内容が良さそうです。僕は喜んでお受けしました。
   主催者の方たちが事前に打ち合わせに来られました。僕と主催者の思いは一致していました。それは「呉秀三のことよりも、呉秀三が問いかけた問題について話したい」ということです。昔の問題について話すよりも、「もしもいま呉秀三が生きていたら、どんなことを課題と感じて取り組むだろう?」と考えながら話す方が、ずっと有意義になると思われました。過去よりも生きたいまの問題を語りたいのです。
   本の内容や呉秀三の問提起について簡単にまとめてみました(以下に載せます)。結果的にわかったのは、僕がしている地域での予防的な相談活動は、呉秀三の「問題提起の先にあるもの」の1つだということです。自分が手探りしてきたつもりでいましたが、実際には先人の探求に乗っかって、その少し先を見ようとしていたのですね。
   呉秀三の視野は広く、いまでも精神科分野で課題になっていることがたくさん問題提起されていて驚きます。私宅監置の犠牲になっている患者たちへのあわれみや、制度への深い怒りが伝わってきます。ほんとうに深い視点とは、知性と感情の両面が結晶化してできあがるものなのでしょう。偉大な先人の存在をいままでよりも身近に感じられてうれしく思います。

 

写真1   『現代語訳  呉秀三・樫田五郎 精神科私宅監置の実況及びその統計的観察』(訳・解説:金川秀雄、医学書院、2012年)。読み通すのは大変だが、大変に価値のある内容であり、多様な切り口から論じることができる。

 

写真2   本のなかに出てくる私宅監置の図や写真。

 

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