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精神科スタッフの雰囲気について 2019年3月6日(水)

   精神科の医療機関にはさまざまな問題や悩みを抱えた方が来られます。幸せな方は少なく、多くは不幸や苦しみの渦中にいる方です。なので受診者は何らかの癒しを求めている方が多く、スタッフは癒しの雰囲気を作ることが求められます。
   これはいたって当たり前なようですが、実は当たり前ではありません。僕が精神科病院に勤務し出した当初の疑問は、「なんで癒しを提供する施設なのに、比較的きついスタッフが多いんだろう?」でした。その後15年目のいまに至るまで、癒しの雰囲気についてスタッフと話すことはあまりありませんでした。
   なぜそうなるのでしょうか? 1つの答えは、「診療の対象としている疾患の種類による」というものです。従来の精神科では、統合失調症の診療が中心でした。統合失調症では、状態が悪化した際には幻覚・妄想・不眠・興奮といった症状がみられることが多く、スタッフに求められることは「まずは余計な脳の刺激を減らすこと」です。脳機能の不調なときには、淡々とした関わりの方が、与える負担が少ないです。親しみや暖かみを中心とした関係をスタッフが提供しようとしても、かえって混乱を招きやすいのです。
   また統合失調症では悪化を繰り返すうちに、人間関係がおっくうになって引きこもりがちになったり、活気が低下してぼんやりしてしまったりすることがあります。その際には、スタッフに求められるのは、「少し背中を押して活動を促してあげること」になります。ただ単に癒しの雰囲気を提供するばかりでは、患者さんが何もせずに時間を過ごしてしまうことにつながりやすいのです。
   さらにごく一部の方ですが、イライラや攻撃性・暴力といった症状がなかなかおさまらない方がいます。精神科病院に長期に渡って入院される方は、どうしてもこのような安定しにくい方が多くなります。するとスタッフも優しく接するだけではダメなことが多く、場合によっては厳しくお話することが求められるのです。
   統合失調症だけでなく、従来の精神科医療で重視されてきた双極性障害・アルコール使用障害・てんかんに伴う精神症状といった疾患でも、似たような状況がありました。そういうわけで、従来の精神科医療のなかでは、緊急時に対処できるピリッとした雰囲気の方が、ゆったりした穏やかな雰囲気よりも重視されてきたきらいがあります。
   では現在はどうでしょうか? 現在では精神科スタッフが統合失調症の治療に悩むことはだいぶ減っていると言えます。理由ははっきりしませんが、世界的な軽症化がみられています。また薬剤の進歩により、昔よりも副作用の少ない飲みやすい薬が多くなり、状態が安定される方が多くなりました。統合失調症に関しては、病状の安定だけではなく、いかにして充実した社会生活(就労・経済的自立・結婚・育児など)を送っていただくかという社会的リハビリテーションの分野に重点が移ってきています。双極性障害についても状況は似ています。
   そして統合失調症については、なぜかはわかりませんが、新規の患者さんが減っています。これは病院の外来にいると顕著に感じられます。幻覚・妄想・興奮などを主訴とする新規受診者が不思議なくらい少ないのです。代わりに多くなっているのが、認知症、うつ病や不安症、発達症です。そしてこれらの疾患は脳の病気でありながらも、対人緊張・不安・ストレスなどに影響される部分が大きく、精神科スタッフは不安の軽減や安心感の提供をより求められるのです。
   ですので現在はスタッフが癒しの雰囲気を持って診療する機運が高まってきています。ですが癒しの雰囲気を持って診療することを妨げるもう1つの問題があります。それは共感の問題です。
   われわれには大なり小なり共感する能力が備わっており、それが患者さんと関わりを作る土台になります。共感できることが、患者さんの脳や心の状態を把握するためのいちばん大事な手段にもなるのです。ですが同じ共感能力のために、スタッフが患者さんの苦悩を、部分的にであれ引き受けてしまうという問題が出てきます。疲れや辛さや不安緊張を含んだ気持ちを、少しずつではあっても受け取ってしまいやすいのです。
   精神科で仕事をし始めて何年かすれば、スタッフには「患者さんとの心の距離を保って、引き受けすぎない」という心構えができてきます。それでも全く共感しないというわけにはいきませんので、徐々に不安・緊張・イライラ・焦り・絶望感・孤独といった苦しさが蓄積していく面があります。ですのでスタッフも知らず知らずピリピリした雰囲気を持ってしまいやすいのです。
   このことは、特に虐待を受けた子どもの治療で顕著になります。虐待を受けた子どもは、関わる人たちを振り回したり、心理的に巻き込んだりすることが多いです。そのなかで支援スタッフも絶望感・人間不信・無意味感などをいつの間にか持ってしまいやすいです。その子を叱っているようで、実は巻き込まれているだけということが多いのです。
   ですので虐待を受けた子どもの治療に関わる際には、こちらがゆったりとした穏やかな気持ちでいることが、決定的に重要になります。子どものことを心配したり、叱ったりしてもいいのですが、我を忘れて感情に振り回されてしまってはいけません。あくまでも穏やかさや安定感がベースにある必要があるのです。
   ですので精神科スタッフは治療のためにもゆったりした穏やかさを持たないといけません。そして自分をリラックスさせることを普段から意識的にしていく必要があります。精神科スタッフは社会を照らす明かりであるべきで、あくまでも明るい雰囲気を持つべきです。僕はいままでがんばることはしてきましたが、自分をくつろがせることは不十分でした。いまからはいかにして自分自身がくつろいで過ごせるかに注目していこうと思います。それが自他双方のためになるからです。

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