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自閉スペクトラム症支援の講演会に参加する1 2018年9月1日(土)

  子どもの発達症支援をしていると、「療育」という言葉によく出会います。とても幅の広い言葉で意味をなかなかつかみづらいのですが、子どもの発達を促進したり、社会生活上の問題への対処法を考えたり、保護者のサポートをしたり、といったことを含んでいます。施設に通所するタイプの療育が多く、通所できる日数は本人の状態を踏まえて市町村が判断します。もっとも盛んなのが就学前の時期(小学校に入るまでの時期)であり、それから小学校の時期の子どもも多く利用しています。中学生や高校生も利用はできるようですが、利用者の数はだいぶ少ないと思います。 
  発達症はADHD以外はしっかりした薬物治療がまだない状況であり、診断後のケアは主として療育機関や教育機関でなされています。ですので療育機関とも連携をしたいのですが、いくつか問題があるのです。最大のものは、療育機関の質がまちまちであることです。発達症支援の活動を長くしている人たちが運営している療育機関もありますが、ここ数年の間に急増した療育機関のなかには、子ども支援にほとんど関わっていない人ばかりのところも多いのです。またかなり偏った考え方のところもあります。
  僕は人吉球磨地域の療育に関する会議に参加させてもらっていますが、この「質がまちまちである」という問題は毎回のように話題になります。発達症の子どもは多いので、療育機関も数が必要なのですが、ただ単に子どもを預かっているだけのようなところもあるそうです。悩ましい状況ですね。時間をかけて地道に研修会などをしていく以外に解決法はなさそうです。
  一方で医療型の療育施設というものがあり、熊本県には3ヵ所の療育センターがあります。人吉球磨地域の子どもたちが多く通っているのは松橋にある熊本県こども総合療育センターです。ここには医師はもちろん作業療法士、言語療法士、理学療法士、保育士、社会福祉士など多職種が配置されていて、施設面でもとても充実しています。ただ利用する子どもがあまりにも多くて、新規の受診は半年待ちの状況です。殺到しすぎているのを改善するためには、地域の医療機関に分散して診療していくしかなく、人吉球磨地域なら僕のいる吉田病院にその役割が期待されています。
  熊本県こども総合療育センターの医師のなかでも、Iさんは以前から僕がいろいろ教わっている方です。医師としても研究者としてもキャリアのある方で、支援者の間で尊敬を受けている方なのですが、非常に謙虚で腰が低いのです。僕は素人のような状態で子ども支援の活動を始めたのですが、僕に教えてくださるだけでなく、僕から学ぼうとされる(?)ような感じで接してくださいます。これはいつお会いしても変わらないIさんの特徴で、「ほんとうに優れた人は飾らないし威張らないんだ」ということを毎回感じます。
  そのIさんから、ゲイリー・メジボフという人の講演会が熊本市であるので参加しませんか、と誘ってもらいました。療育分野の中心的な技法である「TEACCH(ティーチ)」を確立した人の1人なのだそうです。僕はTEACCHについては名前を知っている程度で詳しくありませんが、Iさんのお勧めなので参加してみることにしました。僕が診療している子どもたちの多くが土曜日の外来に来てくれるので、土曜日を休むのは大変なのですが、外来の看護師さんがどうにか調整してくれました。
  当日会場に行ってみて驚いたのですが、参加者が非常に多かったです。500人とあとで聞きました。療育について学びたい人が多くなっていることがわかり、うれしかったです。
  講師のゲイリー・メジボフさんは初期からTEACCHを育て上げてきた方だけあり、いたってシンプルな言葉で支援の技法や思想を語ってくださいました。「どんな技術でも、もとを作った人は、難しくは語らない」というのがいままでの僕の経験ですが、まさにその実例のような方でした。
  印象的だったのが、理論と実践だけでなく、思想を三本柱の一つにされていたことです。思想という言葉は正確ではなく、「支援に当たるうえで大切にしている価値観」といったものなのですが、この部分のお話がもっとも感動的でした。理論や実践は本で学べるかもしれませんが、価値観や思想は本人を前にしないと伝わりにくい部分があります。その人の存在感のなかに大事なメッセージがあるからです。メジボフさんは大きなことを語る人ではないのですが、淡々とした語り口のなかに、誠実さ・謙虚さ・忍耐強さ・思いやり・対等性・実践での思いきりのよさ、といった価値が結晶化していました。
  メジボフさんのお話のなかで特に個性を感じたのは、エネルギーについてのお話です。メジボフさんはTEACCHを実践する組織のリーダーを長くされていました。人を雇ううえで大事にしていたのは、最初のうちは経験の有無や推薦状の有無だったそうです。ですが時間を重ねるなかで、「その人がどのくらい前向きなエネルギーを持っているか」に変わってきたそうです。「経験や知識は教えることもできる。でもエネルギーは教えて与えることはできない」。「1人の人がエネルギーを持っていると、その活動全体が伸びていく。逆に負のエネルギーを持った人が1人いると、その活動全体がしぼんでしまう」と話されていました。長い経験を経たとても知恵深い言葉ですね。
  メジボフさんは発達支援の目標を「その人の社会生活の自立度が高まること」「その結果その人が自信を持てること」に置いているそうです。これこそがまさに療育という言葉の意味なのでしょう。発達症の人たちが自分でできる社会活動を増やせるように支え、自信と充実を味わってもらう。その道のりに付き添っていく黒子の役割が療育の使命なのだと思いました。すばらしい仕事ですね。精神科医療の立場から、僕も応援していきたいです。

 

写真1 講演開始前の会場。すでに人がいっぱいだった。

 

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