お休みどころ

こころの相談活動を作り続ける
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初心について 2018年7月7日(土)

  精神科の世界で最大の学会と言えば「日本精神神経学会」です。精神科の仕事を始めた当初、僕は学会には関心がなかったのですが、同僚の強い勧めで入りました。学会誌を読めることに加えて、研修会やeラーニングを通して、診療技術やいま起こっている問題などを学べます。また専門医の認定などもする団体ですので、専門医になるためには所属が必須ですから、学会に入っておいて結果的にはよかったのでした。
  その学会誌は毎月届きます。テーマはさまざまです。7月に届いた学会誌(第120巻、第6号、2018年6月)の特集は「精神科臨床における聴きかたと尋ねかた」でした。僕はパラパラ見て捨てるつもりで何気なく手にしました。
  そのなかの最初の論文「精神科臨床における聴きかたと尋ねかた」(松木邦裕,布施泰子,渡辺俊之,吾妻壮、488〜513ページ)を読みました。精神科医としてどのように患者さんの話を聞けばいいのか?またどのように練習すればいいのか?について書かれていました。論文というよりもエッセイに近く、魅力的な内容でした。
  この論文のなかで特に僕の注意を引いたのは「初心」という言葉でした。論文のなかでは「初心として、患者さんの言葉に異論をはさまずにただ聞いていくということを、徹底的にしないといけない」といったニュアンスで使われています。僕自身は、「あなたの初心は何ですか?」という問いかけとして受けとりました。
  僕はもともとは「相手の心の相談に乗り、少しでも楽になってもらえれば」と思っていました。次に「患者さんの話を深く聞き、回復してほしい」と思うようになりました。ですが精神科の現場で仕事をするうちに、「対話だけでよくなる精神疾患は少ない、適切な投薬も必要だ」と感じました。いまでは「内服してもらったり、環境を調整したり、自分の病状について知ってもらうためには、こちらの対話力が必要」と感じています。また他の職種と連携支援をすることが日常になったいまでは、「他の職種から気楽に相談してもらえる話しやすい雰囲気が大事」とも感じています。さらには外来でも病棟でもたくさんの患者さんのケアをしないといけない現状から、「長くお話を聞きすぎずに、必要なことをテンポよくやり取りしないといけない」とも感じています。1人の患者さんばかりに長々話していても、成果が上がりませんし、平等にケアする原則から外れるからです。
  そんなわけで対話についての考え方も時間とともに変わってきたわけですが、やはり原点は大事です。患者さんの話にていねいに聞き入るということが仕事の中心にないといけません。セカセカと業務をこなす日々のなかでは消えてしまいそうな原点ですが、すり減らないように大事に守っていこうと思いました。
  そしてその一方で、理想と現実のバランスを取るように、実務的な対話もテキパキできるようにしていきたいです。患者さんにとっては、「いくらていねいに話を聞いてもらっても、診療が遅くて待たされると嫌だ」というのが大事なニーズです。僕自身も病院に行ってまず感じるのは「早く順番が来てほしい」です。すばやくこなすことも患者さんのためになる大事な技術なのだと思います。
  さらには病院の組織が生き生きするようなコミュニケーション力も求められます。また地域の関連職と連携しながら励ませるような力も必要です。また家族のなかでのやり取りも大切です。そう考えると、対話というのは人間が生きていることの中心にあるとも思えてきます。
  僕たちが生きていることは、常に対話の練習をしているとも言えるのでしょう。何かの目標を持ちながら日々の小さな対話をしていけば、少しずつでも目標に近づいていけるのではと思います。僕の場合、さまざまなレベルで身の回りの人たちを元気付けられればと願っています。目標を持つことが対話の技術を高めるうえで何よりも重要なのでしょう。

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