お休みどころ

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小林幹穂さんの資料を読む1 2017年11月5日(日)

  小林幹穂さんは僕が以前伊敷病院でいっしょに働いたことのある精神科医で、かつ文化人類学の研究者でもあります。精神科の臨床では解離症やPTSDを専門とされ、文化人類学的には南方諸島(奄美・沖縄)の伝統的な治療文化であるシャーマニズムを研究されました。現在は臨床に専念されていますが、やはり学者としての思索があり、論考を発表されています。
  小林さんが東日本大震災の際に医療支援に定期的に行かれたことは知っていました。また最近熊本市の「桜が丘病院」の院長になられたことも知っていました。ですが小林さんはシャイというか、まめに連絡を取り合うタイプの方ではないため、僕の方からの連絡は特にはしないままでした。
  ところがある日小林さんとの共通の友人から連絡があり、そのことで小林さんに電話やメールをすることになりました。直接お話はできませんでしたが、後日郵便で資料を送ってくださいました。一部分を読んで大変おもしろかったのですが、なぜか仕事かばんのなかに入れておきました。半年経ったいまになって、時間ができたので読んでみました。
  資料は2部あり、1つは『精神療法』(43巻第2号、金剛出版、2017年)という雑誌に発表された論文です。論文のタイトルは「椿説憑物談義(ちんせつつきものだんぎ)―写しと退行(たいこう)―」で、これはおそらく「憑依(ひょうい)現象についてのちょっと違った角度からの考察」といった意味でしょう。憑依は小林さんの研究していたシャーマニズムにおいて治療手段として使われるものであり、精神医学の世界のなかでは解離症として扱われるものです。つまり小林さんの研究と臨床の一番中心のテーマなのです。
  憑依についての一般的な見方は以下のようなものです。「虐待などで圧倒的な心的外傷体験をした人が、自分の心が壊れないための自然な防御反応として、つらい自分と別の自分をひとまず分けて、心の崩壊を回避する。そのプロセスが反復して固定化してしまうと、別の人格になり多重人格の状態になる」。ところがこの小林さんの論考のなかではこういった考え方は全然出てきません。
  ではどのような考え方かというと、大まかにまとめてしまえば以下のようになります。従来無意識として注目されてきた領域には、以下の2つがある。仝朕佑凌瓦留底にある無意識、これは脳神経系の働きによって規定される部分が大きい。⊇弦臈な無意識、これは人類全体に共通するもので、神話・夢・象徴・芸術などの創造的な活動に関係するところが大きい。でもその中間領域にあたる2搬嘉な無意識があり、これは祖先から積み重ねられた記憶の堆積する場と考えられる。そしてこのから憑依現象が起こってくるというのです。
  根拠なく上記のようなことを小林さんは言っているわけではなく、文化人類学的な調査や精神科臨床での経験などを織り交ぜて語っておられるので説得力があります。また日常の素朴な実感としても、祖先からの記憶の引継ぎがされていると考えることは自然です。このようなものがないと人類の知恵は伝承されてこなかったのではないでしょうか?交わした言葉だけで文化が伝承されるわけではなく、知らないうちに体の中にしみ込んでいる知恵というものがあるからこそ、文化を発展させていけると思うのです。
  ただ僕個人は祖先や自分のルーツといった問題に全然興味を持たずにきました。ですので小林さんの視点は意外なものでした。小林さんによればシャーマンや口承伝承の部族の多くで、祖先の歴史に関して400数十年ほど前まではさかのぼるけど、それ以前は神話の世界とされているそうです。興野家の祖先は源平の合戦の際に源氏側の那須与一の家来だったらしいと父から聞いたことがあります。そういった時間を意識して生きていくことも大切なのかもしれないと思いました。自分が個人で努力して能力のすべてを獲得したというのは、まったくもって傲慢なのですね。僕はそう思っていました。

 

写真1 小林さんからいただいた資料。

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この記事に対するコメント

先生いつもブログ拝見してました。
伊敷病院の時にお会いしましたが覚えていらっしゃらないと思います。
私はDidは小林先生に出会い 初めて自覚し 催眠も続けていました。
こばちゃんがわがままな私なのに
根気よく治療していただきました。
お会いしたいなあ。

実は先生のblogを昔から拝見しながら
小林先生は私の中で神様なのはw今もかわらずです。
私たちの中をそれぞれを認めてくれた先生。
自己都合でコメントしてしまい
申し訳ありません

私が今まで生きれた理由は小林先生でした。
たまこ | 2020/01/10 6:46 PM
たまこさん、ご連絡ありがとうございます。残念ながらたまこさんのことは思い出せませんが、小林先生のことを大事に思ってくださっているのがなによりうれしいです。僕も小林先生とお話する機会がなくてさみしく思っています。心のなかに存在感の残す方ですよね。伊敷病院にはいろんな意味で印象的な先生たちがおられました。そこで学べて僕は幸せでした。
興野康也 | 2020/01/10 7:10 PM
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