お休みどころ

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神田橋條治さんの冊子を読む 2017年8月5日(土)

  神田橋條治さんは精神科医です。僕が精神科医療の実務を教わった先生なのですが、精神科の研究や著作だけでなく、教え上手としても名高いです。神田橋さんが事例検討会の前にすこし話す小話や、聞き手の質問への回答が、ファンの手によってまとめられて継続的に出版されています。それが冊子『治療のこころ』シリーズです(1〜22巻、発行:花クリニック神田橋研究会)。
  実は僕が神田橋さんを知ったのも、この『治療のこころ』シリーズを読んだのが最初です。精神疾患を持つ友人が集めていて、僕に貸してくれたのです。専門用語が多くてわからない部分が多かったのですが、その一方で精神科分野にとらわれない普遍的な真実が語られていて、光が射してくるようでした。僕の探求にも先が見えていなかったのですが、「見晴らしのよい場所」を夢見させてくれる力があったのです。僕にとっては思い出深い本です。
  ただ最近は神田橋さんが神格化され過ぎていて、『治療のこころ』もあまりおもしろくないと感じてきました。僕自身が神田橋さんの素晴らしさと感じてきたものは「神のように全てを知り尽くして、整然と説明する」「他の人がまねできない超人的な治療をする」ということではないのです。むしろ「全然答えのない状況で、本質を突いた問いを発する直観性」「珍案・奇案・馬鹿げた案も含めて、さまざまな仮説を提出できる生産性」「失敗を恐れず、間違いながら探求していく大胆さ」といった「知的な手探りの力」こそが神田橋さんの魅力だと思います。すでにできあがった論を話すだけの神田橋さんには「知のきらめき」を感じられないのでした。
  そんなところに神田橋さんが新しい『治療のこころ 巻二十二 問いに答える十』(花クリニック神田橋研究会発行、2017年)を送ってくださいました。パッと開いてやはり神秘的な要素を感じたものですから、長い間食指が動きませんでした。それでも大事な先生ですから、読んでみました。
  講演の際に神田橋さんが参加者からの質問を読み上げて回答していく様子が、そのまま記録されています。前半は刺激に乏しい質問が多く、神田橋さんも神秘的で超人的な論を展開するにとどまっています。おもしろくなってくるのは後半で、治療の本質にかかわる質問が出てきます。そして難しい質問が出るほど神田橋さんの頭は冴え、精神科治療を根本から説き起こすことになるのです。
  神田橋さんの語りというのは要約が難しいです。内容よりも語り口そのもののおもしろさが大きいからでしょうし、科学的と言うよりは文学的な美しさがあるからでしょう。結論と言うよりも言葉の流れそのものにおもしろさがあるのです。なので「読んで要点を頭に入れる読書」というよりも、「読みながら自分自身の心が変化していく読書」と言えるでしょう。
  著作と講演を通じて、何十年にもわたって、大勢の支援職を育ててこられたのはまさに偉業です。神田橋さんの本質は治療者よりも教育者にあるのかもしれません。異論を唱えたいところも多々ありますが、やっぱりすばらしい先生を持てたことをうれしく思いました。そして僕も自分のフィールドで、先生のように自由な発想力を持ちながら、探求していきたいと思いました。

 

写真1 『治療のこころ 巻二十二』の写真。

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