お休みどころ

こころの相談活動を作り続ける
<< June 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
<< 2017年5月日録1 | main | しずくの誕生1 2017年5月2日(火) >>

しずくの誕生2 2017年5月3日(水)

   一晩明けました。夜の間には子宮の張りはおさまり、しずくもよく動いていました。お産が近づいている感じはなく、むしろ遠ざかっている気がしました。「もう長期戦だ」「明日もお産が進まなくて退院になるかも知れない」「微弱陣痛で帝王切開になるかも」といったことを美紗さんと話していました。
   ネット上に情報はいろいろありますが、お産は複雑でよくわかりません。調べたところで、結局は河野医師の判断に任せるほかはありません。ただ全てが科学化されたような現代にあって、お産は人間が完全にコントロールはできないものなのだとよくわかりました。お産だけでなく実はたくさんの現象が、人間には管理できないのでしょう。
   陣痛促進剤と子宮口を柔らかくする薬の投与が始まりました。当初はあきらめモードでした。実際に昨日と同じように陣痛が強まる気配は全然ありませんでした。 今日もダメで退院になるかもと美紗さんと話しました。
   ところが10時頃から痛みが強くなってきました。お腹や腰のあたりが痛くて、美紗さんが顔をしかめるようになりました。さらに10時50分には突然に破水したのです。今日出産できるかもという希望が湧いてきました。
   それから分娩室に移りました。僕も最初から付き添えました。ところが分娩室に入ってからすぐに出産かと思いきや、分娩室に入ってからが長いのです。3分おきくらいでグーッと波のような痛みが襲ってきます。美紗さんがウーッと唇をかみしめて耐えることの繰り返しです。不思議なことにはまさに海の波のように、痛みがスーッと引くのです。陣痛の合間には美紗さんも普通に会話できるのでした。お昼ごはんもおにぎりだけですが食べることができました。
   次第次第に痛みが強くなって、陣痛の合間にも美紗さんが苦しそうにするようになりました。酸素マスクをつけても苦しそうです。意識ももうろうとしてきているように見えました。
   毎回立ち会う度に感じることですが、「なんでここまで強度の痛みに耐えながら産まないといけないんだろう?」と思います。看護師さんたちはどなたも「痛みが来ないとお産は進まない」とおっしゃいます。つまり苦しくないと出産できないということです。傍らで見ていると、まるで運命からボコボコに打ちのめされているように見えました。「どうしてここまで?」「これは理不尽だ」と思ってしまいます。しかも僕にできることと言えば、「フッ、フッ、フッ、フッ、フー」という呼吸法のリズムをいっしょにするぐらいしかないのです。そばにいても悲しいぐらいに役に立ちません。
   出産直前の最後には、とうとう美紗さんが苦しさのあまりに声を出してしまいました。「痛い・・・」と泣き出す感じでした。つぶやき程度で叫んだわけではないのですが、それだけに余計に苦しさを感じました。ほんとうに我慢の限界を越えた痛みだというのがわかりました。
   とうとう12時57分、娘のしずくが生まれました。体が白い粉まみれでなくて、肌が赤かったです。生まれてすぐに「オギャア、オギャア」と大きく泣きました。体重は3538gでした。一般的には大きいのですが、4000g近くあるかと思っていたので、意外と小さかったでした。 
   美紗さんは後産(あとざん)の処置のために2時間分娩室にいて、そのあと車いすで部屋に帰ってきました。美紗さんのご両親とやすみと響と僕で迎えました。英雄という言葉がふさわしいのかどうかわかりませんが、まさに大冒険から生還した英雄でした。自分の限界を超える試練に耐え抜いたのです。美紗さんの目にも静かな自信が輝いていました。
   そしていま、夜になりました。お産のあとの出血はありますが、美紗さんの体調はだいぶ改善してきています。やすみとお話したり、しずくの顔を見に行ったりできています。
   そして僕はこの記録を書いています。出産当日の今日でさえ、お産の苦しみを目撃した経験がもう過去のことになりつつあります。それほどに記憶の風化は早く、激烈な体験も日常生活のなかに溶け込んでしまいます。「真実の啓示はほんのいっときのこと」といったことを読んだことがありますが、たしかにあとはいつもの代わりばえのしない生活になるのでしょう。
   いまからは3人の子育てという新たな挑戦が待っています。子育てもまたほとんどの時間はありふれたものであり、何かの変化や困難にぶつかったときにだけ、新しい人生の見方のヒントを得られるのかもしれません。小さな宝石のかけらを集めて装飾品を作ろうとするように、人生の経験のかけらを集めてつなぎあわせることで、未来を生きる人たちへのメッセージを作れればと思います。

 

写真1 だいぶ陣痛が強くなってきた。

 

写真2 やっと生まれた。しずくは最初から元気よく泣いた。

 

写真3 新生児室に入ったしずくを見ている響。

 

写真4 しずくは抱かれるのが好き。

『お休みどころ』通信 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | - | -

この記事に対するコメント

コメントする









この記事のトラックバックURL
http://oyasumidokoro.rongakusha.com/trackback/1424856
この記事に対するトラックバック