お休みどころ

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フランスの医師と話す 2017年4月6日(金)

  僕が勤務している吉田病院には「子ども支援チーム」があります。メンバーは看護師や精神保健福祉士を中心とする多職種です。10人ほどで毎月例会を開いて勉強しています。年に3回ほどは100人規模の講演会も企画しています。
  4月の勉強会では僕が司法面接研修の報告をする予定でした。研修の内容を話すだけでは伝わりにくいので、司法面接のロールプレイをしてみようと思いました。役割設定をして、仲間に段取りをしました。
  ところが2日前になって、急に事態が変わりました。同僚のH看護師さんから、「フランス人のCさん(児童精神科医)が人吉に来ている」と聞いたのです。H看護師さんの親族の友人に当たる方なのだそうです。H看護師さんはアィディアマンで、いつも新しい動きを提案してくれます。
  そんな方のお話を聞ける機会はめったにないので、ぜひ子ども支援チームの例会で話してくださるようにお願いしました。あわせて病院の見学もしていただけたらと思いました。実現するのかどうか、最後の最後までわからなかったのですが、とうとうその日の夕方に実現することになったのです。あとでわかったのですが、翌日にCさんは東京に移動されるとのことでしたので、ギリギリセーフだったのでした。
  Cさんは温厚で話しやすい女性でした。謙虚な方で、勉強会でも自分だけが話すのではなくて、僕たちが日ごろしている活動についても知りたいとおっしゃいます。そこで子ども支援チームの10人ほどで、Cさんに質問をしながら、自分たちの仕事についても話す形にしました。
  話してみてわかったのですが、Cさんは児童精神科医ではなく、総合診療医(General Practioner)でした。イギリスでは地域ごとに総合診療医(かかりつけ医)がいて、どんな病気でもまずはそこを受診し、必要に応じて専門医に紹介されるというシステムになっています。フランスも同じようなシステムだそうで、Cさんは「赤ちゃんから認知症の高齢者まで」なんでも診療するそうです。初期対応のエキスパートということになりますね。
  なおかつCさんは精神科病院で働いていたそうです。なぜそのようになったかというと、精神科病院の患者さんたちに身体合併症を持つ方が多いので、「総合診療医の配置を」と看護師さんたちが声を上げたのだそうです。事情は日本でも全く同じで、僕が働いている吉田病院でも患者層の高齢化とともに、身体疾患の合併症を持つ方が激増しています。吉田病院では内科医の配置がまだできていないのですが、ぜひ実現してほしいなと思いました。
  Cさんのお話の印象的なポイントは以下の通りです。
・フランスの精神科医療政策の考え方は、「患者さんができるだけ病院のなかではなく、在宅または地域で生活できるように」というものである。
・Cさんの病院は150ベッド程度で50万人の地域をカバーしている。この割合で行くと、人口180万人の熊本県には精神科病院が4つぐらいあれば足りることになる。でもいまは50近い精神科病院が熊本県にはある。なのでフランスの精神科病床は、大まかに言って日本の精神科病床の10分の1くらいなのではと推測される。
・フランスの精神科医療システム(病院、クリニック、施設など)はほとんどが公立である。大半が私立の精神科病院である日本とは大きく違う。日本の精神科病床の削減がなかなか進まないのも、ここに起因している。
・150ベッドの精神科病院に、約80人の医師と、約300人の看護師が勤務している。これは日本の配置よりずっと多い。僕の病院は同じ規模だが、医師は非常勤も入れて8人、看護師も100人以下だと思う。なのでフランスの方が日本よりも「病院は少なく、スタッフの配置は多く」なっていると推測される。
・ピアカウンセラー(病気の当事者が支援者になる)も治療チームに加わる形が近年始まった。
・フランスでも医療の地域格差の問題はある。施設の老朽化の問題もある。
・建物よりもスタッフの質が大切だ。
・身体合併症対策が重要である。
・犯罪を犯した精神障がい者への対応が難しい。入院も長期化しがちである。
  話題は多岐に及びましたが、Cさんの姿勢は一貫していて、地域移行を重視しているのが感じ取れました。そしてそここそがまさに日本の精神科医療が困っている点なのです。いろんな要因があるのですが、結局のところ民間病院は経営的に生き残らないといけないですので、入院者数をなかなか減らせないのです。また患者さんを長期間収容することで経営が成り立つという保険点数システムにも問題があります。どんどん改革が進んでいますが、もっともっと外来や訪問を重視する保険点数システムに変えていかないといけないのでしょう。
  一方でCさんと話しながら感じたのは、「国は違えど、直面している課題はあまり変わらないんだな」ということです。子どもの虐待、休職者の復職支援、精神障がい者の就労支援、認知症の問題、身体合併症の問題など、同じような取り組みをしていることが多々ありました。現代では、国家間の医療格差も少なくなっているのではと思います。
  今回Cさんに来ていただいて感じたのは、「自分たちのやっていることを、いろんな角度から照らしなおす必要性」です。日々の仕事ばかりに追われていると、「ほんとうにこれが有効なことなのか?」といった根本的な問題意識が消えてしまい、かわりに「職場がうまく回るためにはどうすればいいか?」といった実用的な思考ばかりになってしまいます。違った立場から精神科の領域に関わっている人をお招きして、自分たちの業務のあり方を考え直してみるのが、ときには必要だと思いました。今後はもっともっと「異質な視点」を持った人をお招きしていきたいと思います。

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