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「精神保健指定医研修会」に参加する 2017年2月1日(水)

  精神科には「精神保健指定医」という資格があります。精神科には患者さん本人の同意を得れなくても治療をしないといけない場面というものがありますが、そういった強制的な処遇(強制的な入院、隔離、身体拘束)の際に必要性を判定するのが指定医の主な役割です。患者さんの人権を制限する重い役割で、法的・公的な意味あいも強い立場になります(みなし公務員)。
  資格を取得してから5年ごとに更新する義務があるのですが、僕にもその5年目がやってきました。研修会の受講が更新には必須です。東京で研修会があるので出かけました。
  研修会は活発とは言いがたかったですが、僕にとってはとても勉強になりました。精神科医の法的な側面について関心がありますので、正直言ってもっと基礎的な法律とその適応にポイントをしぼって掘り下げた講義を聞きたかったです。
  以下に僕にとって印象的だった一部の講義をまとめてみました。講義そのものとは違い僕のノートのようなものですから、文責は僕にあります。


精神保健指定医研修会(126回)

●「精神障害者の人権と法」(柑本美和)

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○「人権とは何か」
・精神障害者に関わる人権としては、大きく分けると「自由権」と「社会権」がある。
・自由権のなかには治療拒絶権があり、そこから派生してくるのがインフォームド・コンセントの権利。これは「情報提供が必要」というだけの意味ではなく、「例外を除いて原則的には患者の承諾がない医療行為を行ってはいけない」という分脈で理解する必要がある。
・社会権は適切かつ最小限の治療を受ける権利を意味する。
・精神障害の存在だけでは強制入院は正当化されない。適切な治療を受けられるからこそ正当化される。
・全ての国民の平等と差別禁止を定めた日本国憲法14条は、精神障害者への差別禁止の土台である。
・1991年、国連で「精神疾患を有する者の保護及びメンタルヘルスケアの改善のための諸原則」が議決された。これは世界各国で普遍的に妥当であるような精神保健福祉の土台を定めたものである。この国連原則にできるだけ近づくように日本も法制度を整備していくべきである。
・国連原則1では、全ての人ができるだけ最善のメンタルヘルスケアを受ける権利を持っていることや、精神疾患を持つ人が人道的な処遇を受けられるべきことが書かれている。
○精神障害者の権利
1、精神障害者の自由
・医療観察法では初めて「医療を受ける義務」が規定された(指定入院医療機関での入院・指定通院医療機関への通院)。
・これは精神保健福祉法での強制入院患者の場合も同じであると考えてよい。
・だからといってインフォームド・コンセントの権利が否定されたわけではない。
・国連原則11では例外を除いて「患者のインフォームド・コンセントなしには、いかなる治療も行われてはならない」と定められている。また患者に伝えるべきこととして、病状の評価、治療の目的や期待される効果、他に考えられる治療法、苦痛や副作用、などが挙げられている。
・医療観察法の入院処遇のケースについては、倫理会議でインフォームドコンセントなどが守られているかがチェックされる。
・今後は精神科病院に倫理委員会などを必置とし、一般の入院のケースについても患者の権利が守られているかをチェックするのはどうかという考えもある。
・治療拒絶権、一般に承認されていない治療行為の違法性、どうしてもやむを得ない場合の被告知投与の適法性などについては判例がある。
2、治療を受ける権利
・アウトリーチなどにより地域にいながらに精神科医療を受ける権利がある。

供強制入院制度
1、強制入院の正当性
・国が市民の自由を制限する権限を持つ根拠の原理には、「秩序の維持」(ポリス・パワー、患者が社会に危険を及ぼす状態の場合には自由を制限せざるを得ない)と「国親思想」(パレンス・パトリエ、自己決定ができない人には国が代わって決定してあげる必要がある)の2つがある。
・措置入院制度は秩序の維持の原理に基づくものである。一方、医療保護入院制度は国親思想の原理に基づくものである。
・強制入院の原理は1つの方向に統合されるべきである。
・国連原則16には、非自発的な入院の要件が書かれている。「自己や他者への危害の可能性が高く、緊急な対応が必要である」「入院させないと深刻な状態の悪化が起こると予想される」の2点が要点。「自己と他者の危険性」は「医療の必要性」の一部として包み込まれている。つまり国親思想が強制入院の基本原理になっており、秩序の維持はその一部となっている。
2、医療保護入院制度の改革
(1)医療保護入院の維持
・医療保護入院の保護者制度の背景には、「精神障害者の面倒は家族が見る」「精神障害者の行為は家族が責任を負う」という家族主義的な考え方がある。
・保護者(家族)の同意が得られないと退院が難しいため、地域精神医療の発展を妨げている。
・保護者制度は改革すべきだが、「判断能力が阻害された精神障害者の状態悪化を防ぐための入院」という趣旨の強制入院制度は維持が必要である。
(2)保護者制度の廃止、入院要件の改正
・保護者による同意を必要とする医療保護入院制度には以下のような問題点がある。本人の権利擁護が十分か?入院の必要性があるのに、保護者の同意が得られないから入院にできないという状況が起こりうる。保護者の同意がなければ退院にできないため、入院が長期化しやすい。本人の意思に反して保護者の判断で入院させるため、本人と保護者の間にあつれきが生まれやすい。
・制度改革の検討チームでは、保護者制度の廃止だけでなく、患者の代弁者制度も提案していた。しかし実際の改正法では保護者を「家族などのいずれかの者」に置き換えただけの中途半端な変更にとどまり、代弁者制度も創設されなかった。改正法の人権擁護装置としては、「退院後生活環境相談員」の選任があるのみである。
・家族はほんとうに権利擁護者か?という問題もある。特に保護者が虐待を行っているケースなどで問題となる。
(3)今後必要なこと
〇慊螳紊里澆糧獣任任瞭院制度創設、そして権利擁護のための仕組みの整備が必要。
・精神医療審査会の機能強化。
・代弁者制度の創設。弁護士などによる患者への援助制度。
地域精神医療のさらなる推進
・医療観察法においては通院命令制度が規定された。一般精神医療においても必要である。これがあると入院件数を減らせると考えられる。
A蔀崙院制度の改革
・措置入院については、妥当であったかどうかの事後審査がない。
・代弁者制度もない。
・退院後に医療を継続できるための仕組みが必要。

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1、人権保護の機関としての精神保健指定医
・精神衛生法の改正のときには、以下のような議論があった。「強制入院は裁判所の権限とすべき」対「司法の介入は最小限にすべき」。結果的には司法の介入を最小限にする制度になった。しかし諸外国では裁判所の判断に任せるのが一般的な在り方。
・精神保健指定医制度は、現行法におけるもっとも重要な人権擁護装置。
・指定医の不当な行為に対して処罰が厳しいことは当然である。
・現行の精神医療の規制は行政的な規制が基本である。しかし諸外国では司法による規制が一般的である。
2、指定医の資格と権限
・指定医から医療観察法の「精神保健判定医」「精神保健審判員」が選出される。これらは法曹資格のないものに裁判官と同様の権限が与えられた初めての例である。
3、指定医の制裁と処分
・資格の取り消しや停止、みなし公務員としての処罰、過料がある。

●「精神障害者の社会復帰及び精神障害者福祉」(谷野亮一郎)
・有床総合病院精神科の施設数も病床数も残念ながら減少している。
・谷野呉山病院での多職種連携の仕組みには以下のものがある。
・クリニカルパスの活用。急性期パス、アルコールパス、退院支援パス。
・患者心理教育・家族教室を開催。
・長期入院者の退院支援。「あすなろ会」(グループで退院準備のためのプログラムを受けてもらう)。高齢長期入院者退院支援委員会。地域移行支援委員会。
・重度精神障害者の地域生活支援。ACT−G。
・ACT(アクトと読む)とは、既存のサービスでは地域生活を続けることが困難な重い精神障害を抱えた人を対象とした、訪問相談を主体としたサービスモデルである。
・ACTの特徴には以下のものがある。多職種チームによるサービス提供。24時間週7日のサービス提供体制。積極的に訪問する。
・ACTによる効果には以下のものがある。入院回数の減少、入院期間の短縮、サービス脱落者の減少、自立した生活の確立、就労状態の改善、満足度の上昇。一方で精神症状の改善や社会的機能の向上はもたらさない。

●事例研修シンポジウムより
1、措置入院について
・措置入院になる割合には地域差が大きい。
・措置入院の退院後の地域ケアの仕組みを作ることが必要。
・措置入院の「自傷他害」の要件に含まれるのは自殺企図や暴力だけではない。性的問題行動、侮辱、器物破損、強盗、恐喝、窃盗、詐欺、放火なども含まれる。刑罰法令に触れる程度の行為を含むので、業務妨害などさまざまなケースがありうる。
・措置診察の要請があった場合、行政は事実確認をしたうえで、原則として必ず措置診察を行うようにすべき。
・たとえ家族の同意があったとしても、行政が措置入院を医療保護入院に誘導するのは避けるべき。
・すでに措置入院以外の形式で精神科病院に入院している患者に対して措置権発動をできるかどうかは議論がある。
2、隔離や拘束などの行動制限について
・行動制限は主治医が診察の上で医学上の必要性から行うものであり、医師でないものの判断で行うことは許されない。
・入院形態については問わない。
・過去の行動に対する制裁として行動制限を行うことは絶対に許されない。
・本人の意思で閉鎖的な環境に入室する場合、隔離には当たらない。
・点滴などの医療行為の間の短時間の身体固定は拘束には当たらない。車いすの転落防止のベルトも短時間なら拘束には当たらない。
3、身体合併症を有する人の入院について
・身体面の問題だけのための強制入院はできない(たとえ放置したら致死的になる場合でも)。
・インフォームド・コンセントに基づく患者の意思決定が基本となる。

 

写真1 研修会の資料。

 

写真2 会場の様子。

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