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「上球磨認知症初期集中支援チーム」の研修講演旅行 2017年2月22日(水)

  僕は以前水上村(みずかみむら)に住んでいたこともあり、水上村や周辺の湯前町(ゆのまえまち)、多良木町(たらぎまち)の相談支援活動に参加することが多いです。認知症の困難事例やうまく支援につながっていないケースに対して多職種で関わっていく「認知症初期集中支援チーム」にも参加させてもらっています。水上村・湯前町・多良木町の3町村合同で設置しているチームですので、「上球磨」認知症初期集中支援チームという名前です。このチームには保健師や社会福祉士、行政の方も参加しているのですが、非常に優れた尊敬できる人が多く、僕にとってやりがいと楽しさを感じる場になっています。
  認知症初期集中支援チームの活動を始めると、最初はいままでたまっていた難しいケースが上がってくると言われています。上球磨のチームでもまさにそうで、最初のころは会議で検討するだけでなく、面談をしたり、訪問をしたり、退院後の支援についても検討したり、大変でした。あまりにも困難な状況で、支援が進まなくてため息が出ることもありました。ですが最近ではある程度難しいケースの支援が進展し、僕たちも気楽に会議に臨めるようになりました。また一方では少し中だるみの状況になってきた感じもし始めました。
  そこへ思わぬチャンスが舞い込んできました。鹿児島県北部に位置する薩摩川内市(さつませんだいし)にある川薩保健所の保健師さんから、講演に来てくださいとの依頼があったのです。チームの仲間と出かければ士気が高まりますし、自分たちの活動を発表すれば勉強にもなります。僕はぜひ行くべきだと思い、会議の席で「みんなで行きましょう」と強く主張しました。幸いにも仲間たちも同意してくれました。予算面の難しい問題も仲間たちがうまくクリアしてくれました。1泊2日の講演研修旅行になりますので、僕自身も勤務日を1日休まないといけませんでしたが、その調整もなんとかできました。こうして一行10人で出かけることになったのです。
  10人乗りのハイエースでいざ出発です。普段から緊密に仕事をしている保健師さんたちや社会福祉士の山浦さんもいます。普段はあまり話す機会の少ない地域包括支援センターの仲間や、保健所の保健師さんもいます。同じ車で行けたのが幸いで、道中にいろんな問題を語り合うことができました。「うまく支援の手の届かない地域の人たちに、なんとかアプローチできないか」という問題意識を基本的にみんなが共有しているので、話がしやすいのです。「違う職種が同じ方向を向いて活動できるか?」が初期集中支援チームの成否を握ると聞いたことがありますが、上球磨ではいまのところうまくいっています。
  2時間ほどで薩摩川内市に着きました。今回の研修を依頼してくださり、事前にメールでやり取りしてきたU保健師さんたち3人が迎えてくださいました。皆さん気さくで、すぐに打ち解けました。地域をよく回って「少しでも効果的な支援システムを作れないか?」と考えておられることがわかり、話がすぐに通じました。保健所の保健師さんには大まかにいって制度的な面に強い人と実地での支援に強い人がいると思うのですが、皆さん現場肌の方たちでうれしかったです。
  お昼ご飯のお店の予約がうまく取れていなかったハプニングがありましたが、近くのお店に移動して、運よく全員入れるお座敷が空いていました。魚料理がおいしく、「かえってよかったね」とみんなで話しました。チームワークがいいと、ハプニングがあってもかえって予期せぬ成果を上げることがことができます。今回の旅行中には交通事故など他にもハプニングがあったのですが、チームの誰かが柔軟に対応してくれました。
  「川薩保健所」に移動した後、「地域支援事業充実・強化支援事業検討会 エリア別会議」という会議に参加しました。保健所の方たちに加えて、鹿児島県北部の5つの市や町(薩摩川内市、さつま町、出水市(いずみし)、阿久根市(あくねし)、長島町(ながしまちょう))の保健師・福祉課職員・地域包括支援センター職員や、精神科病院のスタッフなどが50人ほど集まっていました。高齢者支援の最前線にいる人たちです。ここで僕たち上球磨認知症初期集中支援チームの活動について報告させていただきました。
 
●「認知症初期集中支援事業について」(上球磨認知症初期集中支援チーム チーム員)
・湯前町役場の高木主幹から立ち上げの経緯について報告
3町村と地域包括支援センターの4者で協議して進めるので、時間はかかるが知恵も沸く
医師会や病院とのやり取りに細かな配慮が必要
・社会福祉士の山浦さんから活動の様子を報告
チーム員どうしになんでも言い合える信頼関係がある
自町村・他町村に関係なく、同じ地域の問題として全員が対策を検討
行政の高齢者支援担当者の出席もあり、相互理解が促進されている
対応が長期化しているケースがあることが課題
・多良木町の松下保健師から、事前にいただいていた質問に対する解答
認知機能の評価指標、支援機関、活動の線引き、訪問の費用負担など
・興野から困難事例対応や地域力向上のためのポイントの報告
  ただでさえ行き詰まっているケースが上がってくるので、まずはチーム員がひと息付けて、気持ちの余裕を持って議論できることが大切。
必要があればすぐに地域に出かけていくフットワークが必要

  次の意見交換(グループワーク)ではほかの地域の活動状況などを教えてもらえました。
・ 薩摩川内市では認知症の予防に重点をおいて取り組んでいる。70歳以上で介護保険のサービスを使っていない人たち(約16000人)の全戸訪問を行い、問題を抽出を行っている。認知症が疑われるのは3.6%の方たちだった。その結果から認知症初期集中支援チームで検討するケースを挙げている。課題としてはケースが多すぎて大変なことがある。
・鹿屋市ではサポート医が豊富で、議論もスムースに進んでいる。
・さつま町でも初期集中支援チームが活動を開始している。
・出水市・阿久根市・長島町はこれから立ち上げていく。・
  皆さん現場で苦労されている方たちですので、自然と話も弾みます。すごく楽しくて、うれしくなりました。次の食事会も含めて、今後支援チームを立ち上げていく市町村の方たちへエールを送りました。
  夜には主に医師向けの研修会「北薩地域認知症施策推進会議」に参加しました。ここでも上球磨認知症初期集中支援チームの活動について報告をしました。僕は初期集中支援チームの活動について正面切って話すのはこのときが初めてでしたし、参加者に鹿児島県北部の主だった病院の院長の方たちが多かったですので、非常に緊張しました。ですがおおむね好評を得ることができて良かったでした。上球磨の仲間たちとの議論や支援活動には、モデル的な意義があるんだと確認できました。
  翌日は研修の1日で、薩摩川内市の隣のさつま町の高齢者支援活動について学ばせていただきました。午前中は永野地区の公民館で開かれていた「介護予防教室」に参加させていただきました。介護予防教室とは地域の高齢者の心身の健康の悪化予防、特に認知症の予防を目的とした市町村の事業のことだそうです。さつま町では「住民主体の介護予防教室」に先駆的に取り組まれていて、「サポーター」と呼ばれる運営側の方たちが活動を進めています。計算や漢字のドリルをしたり、「ころばん体操」をしたりと、頭と体のトレーニングといった面が強いですが、やはり参加者どうしの絆に価値があるとおっしゃっていました。行政の担当者が取り仕切るのではなく、参加者の皆さんが自発的に動かれているのがすごいですし、自発的に参加する方が効果も上がるのではと思いました。80代の参加者の方も多かったですが、体力測定をしてもかなり維持できているそうです。
  午後は行政面の取り組みについて、さつま町の介護福祉課のN課長さんたちから研修を受けました。驚いたのですが、N課長さんは大変な着想力と実行力の持ち主で、「日本でもまだここだけでしかやっていない」ことや、「さつま町独自の活動」がいくつもあるそうです。僕は行政の活動や制度などについてほとんど知らないので内容をあまり理解できずに残念でしたが、気づいた範囲での要点には以下のものがあります。
・「介護予防・日常生活支援総合事業」を展開するためには、地域の実情をくわしく把握する必要がある。地域差が大きいために、国レヴェルで一律な対策を打つことができない。
・さつま町では「高齢者の生活実態調査」を毎年行っており、民生委員が訪問して調査した結果を分析している。その結果、生活のなかでの困難なこととして、通院が1位だった。2位は草刈り、3位は買い物だった。
・さつま町では高齢化率が38%であり、独居・老々世帯が増加している。低所得者の増加傾向もみられる。
・高齢者が安心して暮らせる地域を作っていく活動の2本の柱として、「元気な高齢者づくり」「地域の支え合いづくり」を置いている。
・地域づくりを進めていくためには地域住民の主体的な参加が必要であり、そのためには行政・住民・関係者の間での問題意識や目標の共有が必要である。
・具体的に課題を発見し支援システムを作っていく人として、「生活支援コーディネーター」を置いている。ニーズの発見、ネットワーク形成、方向性の共有、サービス提供の調整などが役割である。
・車を運転できない高齢者の移動の支援は大切である。さつま町では、以下のような移動方法がある。…名錣離織シー。▲灰潺絅縫謄ーバス(1回200円、バス停、平日、コース限定)。乗り合いタクシー(1回200円、要予約、バス停、平日、コース限定)。げ雜逎織シー(要介護1以上、要予約・ケアプラン、1回30分500円+ヘルパー料金1040円)。ゼ由契約(要支援・身体障害者など、要予約、1回30分1600円+ヘルパー料金1500円[原則不要])。
・これらの移動方法に加えて、さつま町では「総合事業D型」の移動支援を開始した。これは要支援の認定者などで、家がバス停から遠い人や、近くに運転できる家族のいない人を対象としている(協議にて対象者を決定)。行き先も通院・買い物・金融機関など生活に不可欠な場所に限定されている。1回30分510円。
・現在の介護タクシーが要介護認定を受けた人の通院などに限定されていることを考えると、画期的な制度運用である。
  専門的な話が多かったのですが、N課長たちの地域づくりへの熱い思いが伝わってきて感動しました。いっしょに参加した仲間たちは、さつま町の取り組みの先進性に圧倒されているようでした。意志のある人がいれば、新しい道が開けるんですね。
  今回の旅に行けて、優れた人と何人も出会うことができました。また保健・福祉・医療・介護などの原点にある、「高齢者が安心して住める地域を」という目標を認識することができました。個々人の取り組み方はさまざまですが、小さな実験を重ね合わせるなかで、未来の地域社会の設計図がぼんやり見えてくると思うのです。僕もその流れのなかにいたいなと思いました。

 

写真1 「地域支援事業充実・強化支援事業検討会 エリア別会議」の様子。

 

写真2 「さつま町地域包括支援センター」の入り口。

 

写真3 1日目に活動の様子を聞いた「オレンジカフェ  ほうかつ」の開催されている部屋。一般的な認知症カフェと違うのは、さつま町が独自に養成した「オレンジリーダー」の人たちが主体なことだ。

 

写真4 永野地区の介護予防事業。こちらも「サポーター」と呼ばれる住民が主体なことが特徴。

 

写真5 「ころばん体操」はハードだった。

 

写真6 さつま町役場の入り口。介護福祉課のN課長さんたちは、高齢者の住みやすい地域作りのために先駆的な実践活動をたくさんされている。

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