お休みどころ

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神田橋條治さんを囲んでの症例検討会 2014年3月26日(水)

 僕が2012年まで働いていた鹿児島市の「伊敷(いしき)病院」(精神科・神経内科)では、いろいろな院内の勉強会がありました。神田橋條治(かんだばし  じょうじ)さんを囲んでの症例検討会もその1つです。理論家としても臨床家としても有名な精神科医である神田橋さんを中心として、病院スタッフが精神科治療の具体的なケースについて議論します。
 僕はもともと神田橋さんを師として精神科医療について学んだので、この症例検討会は日頃親しんでいる教えを復習・確認する場でした。また未知の症例に対しても鋭敏な観察力と推論する力を発揮する神田橋さんを見て、「すごいなぁ」と思ったり「こうなりたいなぁ」と思うことも多かったです。また院内スタッフだけでなく、全国各地から神田橋さんのもとへ見学や勉強に来られる方たち(臨床心理士や精神科医が中心)も参加されるため、自分が知らない情報を教えてもらえることも多いのです。
 伊敷病院を辞めて人吉(ひとよし)市の「吉田病院」で勤務するようになってから、僕は伊敷病院の勉強会に参加しなくなりました。というか親しかった病院スタッフの人たちとたまに会うくらいしか伊敷病院とのつながりがなくなってしまいました。神田橋さんとも会って話すことがありませんでした。「寂しいなぁ」という気持ち は内心ありましたが、「病院を辞めたんだから仕方がない」と諦めていました。また自分の新しい仕事が忙しくて、気持ちの余裕もなかったのです。
 そうして2年弱が経ちました。2月に研修会で知り合った大阪府の精神科医の方から、伊敷病院の見学や勉強会についての問い合わせがありました。伊敷病院の医局長である八木義人さんとメールでやり取りしたところ、「以前のように症例検討会も月に2回してますよ」とのお返事でした。そのときにふと「よく考えたら僕も症例検討会に行けるんだなぁ」と思い付いたのです。そして「1度行ってみよう」と思いました。たまたま3月の月末に鹿児島市の美紗さんの実家に行く用事がありましたから、そのときに伊敷病院に行けます。
 いつも親切な八木さんは、僕の参加を歓迎してくれました。それだけでなく、僕に症例検討会の出題を任せてくれました。出題者になると準備は大変ですが、得られるものも一番多いのです。
 症例検討会は「クイズ式」で行われています。これは神田橋さんがかなり以前から提案してきた勉強会の形式で、発表者が聴衆に症例の症状、社会的背景、検査データ、診断、投薬、経過などに関する問題を問いかけ、それに聴衆が考えながら答える形式なのです。
 一般の症例検討会はすでにできあがった報告を発表者が読み上げることが多いので、聴衆はただ聞くだけであり眠くなりやすいです。また発表者の「あら探し」的になりやすく、発表者が「どうしてそういう診断にしたのか?」といった質問をいろいろ受けて、非難されやすい面があります。クイズ式だと発表者が聴衆に問いかけ、聴衆が答えながら進んでいきますから、寝ている暇はありません。そして聴衆は主に耳で聞いた情報をもとに症例のイメージを形作り、どんな経過になるかを予想しなければいけませんから、感覚も脳もフル活用しないといけません。発表者が非難されることはほとんどありません。発表者も聴衆も大変ですが、臨床での判断力が鍛えられる参加型の症例検討会と言えるでしょう。
 そういうわけで僕は自分が受け持った患者さんについてのケースレポートを作り始めました。そして患者さん本人の了承を得たり、担当看護師をはじめとする治療チームのスタッフにも発表することを伝えたりしました。
 そのときに予想外のことが起こりました。担当看護師や臨床心理士など3人のスタッフがいっしょに参加したいと言ってくれたのです。たくさんのスタッフと発表した方がよりきめ細かく状況が伝わりますから、僕にはとてもありがたい提案でした。そして一層気持ちが奮い立ちました。
 さらに患者さん本人も参加したいと言ってくださったのです。患者さん本人を含めて状況を検討し、今後の対応策を考えていくことは、症例検討会としては理想的です。ただ遠方であり帰りが夜遅くなることと、参加者が顔見知りの人たちばかりではないため展開が予想しづらいことから、今回は諦めてもらいました。やはり患者さん本人も参加する症例検討会では、参加者が患者さん本人をよく知っていないと、議論も深まりにくいし、患者さんが傷付く危険があると思うのです。
 そして3月26日の本番を迎えました。開始時間の17時半に近付き、参加者の人たちがどんどん伊敷病院の医局に入ってきます。20人ほどで、ほとんどが僕の知らない人たちでした。医局長の八木さんの懐かしい顔もあります。
 そして神田橋さんが来ました。2年ぶりに見る「僕の先生」でしたが、以前と変わらない自然体で気さくな感じでした。「偉いお医者さん」といった雰囲気は全然なく、どんな人たちの間にもスッと混じれる感じなのです。
 検討会そのものは、参加者のほとんどが勉強に来た「互いに知らない」方たちだったこともあり、少し硬い雰囲気で始まりました。僕は参加者がワイワイ発言しあうことを想定していましたので、「うまく盛り上がるのかな」と不安になりました。その雰囲気を変えてくれたのはやはり神田橋さんでした。僕が配った資料や話した情報から、「こういった状況だろう」という推論をみごとに展開し、「だからこういうことが予想される」というところまで話を膨らませてくれます。患者さんの検査データなどを多く聞けばだいたいパターンが見えてくるものなのですが、少ないデータからイメージを描き出すことは、誰にでもできることではないのです。
 「これが僕が自分の理想とした神田橋さんの姿だなぁ」と思いました。機敏な頭脳、大胆で斬新な仮説構築、適格明晰なコミュニケーション、さらにユーモア。発表症例の主要なポイントを読み解いていく神田橋さんの姿は、まるで推理小説の名探偵のようです。
 もちろんこれが精神科の臨床家に求められる資質の全てではありません。実際の治療現場では「鮮やかな解き明かし」といったことはほとんどなく、淡々と書類を書いたり、こまめに患者さんの要望を聞いたり、治療チームに方向性や指針をきっちり伝えたりといった「地道でコツコツする作業」が中心となるのです。「マメさが全て」と言いたくなるほどです。それでもやはり神田橋さんの切れ味鋭い「読みの冴え」には魅力があり、またズバリと要点を突く推論には感嘆させられます。
 自分の師匠はある意味で「精神的な親」のようなものです。僕は神田橋さんの姿に憧れることで精神科医になりました。また同じ病院で働きながら仕事の基礎も教わりました。さらに「反抗期」に入って神田橋さんの直観に頼りすぎるところや、飽きっぽいところ、他職種との連携が比較的少ないことなどに疑問も感じました。
 そしていま違った現場で「独り立ち」してみて、再び見る師匠の姿はやはり魅力的でした。自分が直接知らない症例の本質を大勢の人に「サアッと幕を開けるように」伝えるのですから、まるで魔法使いのようです。そして実際に役に立つ視点を多く含んでいます。さらに親切で教え上手です。神田橋さんの周りに多くの人が集まるのもうなずけます。
 自分の師匠が立派だからと言って自分まで偉くなったように感じるというのは明らかに間違ったことなのですが、やはり僕は神田橋さんの弟子であることを誇らしく思いました。そして医局長の八木さんをはじめとする良心的なスタッフが揃っている伊敷病院で学べたことは、僕にとってほんとうにラッキーだったと改めて思いました。
 でも伊敷病院で僕の人生の旅は終わらず、いまはより困難の多い地域医療の現場で働いています。「伊敷病院で学べたことを実際に活用しなさい」という「天の意志」なのだと思い、自分の足元でしっかり働けるように頑張りましょう。そして今後もときどき伊敷病院に帰って自分の原点を確かめたいなぁと思います。

写真1
写真1 症例検討会の様子(八木義人さん撮影)。

写真2
写真2 終わったあとで。左から2人目の白衣を着ているのが神田橋さん。一番左と左から3番目はいっしょに発表してくださった僕の同僚たち(八木義人さん撮影)。
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この記事に対するコメント

あなたは神田橋氏の本性を知らない。神田橋氏の被害者は多過ぎる。一度位、被害者の声に耳を傾けたら如何?被害者BLOGのcommentのイ・リョファ(李麗華)の所を見なさい。綺麗事しか言わない神田橋氏を許さない人は沢山居過ぎます。因みに私は2008年の患者で、副作用の機構と医師会に抗議した者ですが、その悪口言ってました?ここで失礼、お人好しさん。
PS:フロイトよりアドラー先生を知った方が良いわよ。
李・麗華(イ・リョファ) | 2016/03/09 2:53 AM
イさん、コメントをありがとうございます。たしかに神田橋先生には賛否両論ありますよね。というかすごい崇拝者とすごい敵対者がいるのではと思います。ですがこれは神田橋先生に限ったことではなく、だいたいカリスマのある方はそんな感じみたいです。僕は神田橋先生の病院で働いていたので先生に長所も短所もあることは知っています。ただ最終的には、やはり「大きな人」だと思っていますよ。
興野康也 | 2016/03/09 8:05 AM
興野さん、早速のcommentを有難うございます。
御宅様は、神田橋氏を「大きな人」だと、勘違いしている様ですが、突然ですが、副作用で永く苦し紛れている方の前で、私にしたcommentが出来ますか?私は全身蕁麻疹で、終わりましたが、電気治療を受けた患者さんで、副作用の酷い方の前で、医療に携わっている者として私にした様にcommentが出来ますか?御宅様の人としての正当な倫理観を持っている事を祈ります。
御返事が遅れて、すみません。まだ体が万全ではないので、直ぐ出来無い時は、すみません。
イ・リョファ(李・麗華)
イ・リョファ(李・麗華) | 2016/03/09 6:02 PM
イさん、副作用が出たんですね。状況をよく知らないままにコメントしてすみませんでした。それはたしかに恨みを感じるのももっともかも知れませんね。副作用の問題は、処方した医師としては謝ることしかできないですね。
興野康也 | 2016/03/09 6:12 PM
興野さん、いつも早いcommentを有難うございます。そして最初のきついmessage、すみませんでした。
御理解して下さり、安心します。
私は、まだ神田橋氏の被害者の中では軽い方です。酷い扱いを受けた方がおられます。私が望む事は、神田橋氏が1日でも早く[患者=人体実験]の考えを捨てる事、患者に対してUP standではなくUNDER standになる事を僅かな可能性にかけます。それと、御宅様に「神田橋氏への抗議文」のBLOGを読んで頂けたら、と思います。勿論、BLOGを神田橋氏に見せても構いません。その反応を見て頂けたらと思います。
私の為に、わざわざ貴重な御時間をすみませんでした。これからも、御仕事の差し支えの無い様、御願いします。長文になり、すみません。失礼します。
李・麗華
イ・リョファ(李・麗華) | 2016/03/09 9:33 PM
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