お休みどころ

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「墓碑銘」以降(6)

第二句集「墓碑銘」以降の句
2007.6.19(火)〜2007.10.27(土)
           上島聖好
6.蝉しぐれ

蝶つがい ジャガイモの花 まろび飛ぶ
 (亡父の誕生日に)
夏至の朝 ひぐらし一声 雨中から

水無月の 小石に染み入る 水一滴

水無月や 小石の中で 魚跳ねた

入口で われを待ちつつ アマガエル

梅雨空に 立ちあがるかな お休みどころ
 (看板が立った)
水無月の ヒグラシ舞台 宵のはな

水無月の 鯨の如き 看板や

よろよろと 足どり危うく 舞い踊る

やすらかに 羽を広げて 死を待つか

夜の雨 差し芽の薔薇も よろこべり

梅雨空に 君は犬を 避妊する

鬼塚に 犬の子宮を 埋めにけり

犯されし メスは地面を 狂い掘る

蓮月の 蓮は叩かれ 夢一夜

梅雨合間 切株歩く サワガニや

夏の朝 ヒグラシ指して われも翔ぶ

蓮月の 十二夜の月 抱いて寝る

われら来て 山輝くや 赤トンボ

祖霊たち われはまといぬ 赤蜻蛉

アサガオに ひとつひとつの 御霊かな

夕立は 降らねばならぬ 西の風

アサガオの ラッパの花後の しずけさよ

虫の音の 群れに加わる ツクツクホーシ

夕立の 跡に残るは 虹の基

草の間を ぬっと生え出る 芋の蔓

チョウザメの 影重たきや 蝉しぐれ

八月二十三日 この地に根づく 人となり

遠ざかる 雷追いかけ 蝉時雨

遠ざかる 雷残して 青い空

わしわしと 蝉は鳴くなり 伊豆の朝
 (伊豆にて5句)
伊豆の朝 きくともきかぬ 蝉の声

サルスベリ 伊豆の荒野に 我ひとり

伊豆の月 海に旅立つ 白百合と

クロアゲハ 生きよと罪人 励ましぬ

コスモスの 彼岸にざわめく 防空壕
 (鎌倉にて7句)
白鹿洞 われはこもりて 死ににけり

紫陽花の 日に抱かれて 蘇り

みずひきの 花にひそめり 広大無尽

長谷寺で 海を眺めつ パンを食う

大仏の 胎に入りし 夏の午後

満月に 蝉は死につつ 秋の風

長福寺 晩夏の蝉の あかあかと

蝉しぐれ 「平和」の文字に 染みいれり
 (花巻にて6句)
蝉しぐれ 水車を廻す 地水火風空

窓辺にツイ 精霊蜻蛉 止まりをり

ギンドロの 苗にたましい こもりけり

ギンドロの 葉の裏白し 産毛かな

シラサギに ポシャリポシャリと 晩夏雨

一瞬の 赤き蓮沼 走りゆく

重陽に ソラマメ四粒 種降ろす

水を汲む 指のうれしさ 秋雨も

山の神 献じましませ ホトトギス
 (平谷の山の神祭りにて)
シカの声 笑いのめす 他になし

霧衣 纏いて友は 身罷りぬ
 (吉本友子さんに捧げる2句)
友の死に 畑に立ちて 蕪を蒔く

銀杏のわれ 臭き香 鼻に充つ

どんぐりを 拾いし友と ゆく秋に
 (朴才暎さんに捧げる)
わが業苦 ひきおこし罪 日入鳥泣く
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「墓碑銘」以降(5)

第二句集「墓碑銘」以降の句
2007.5.4(金)〜2007.6.18(月) 65句
           上島聖好
5.チェロの音

青嵐の 青き夕暮れ 雨止みぬ

五月雨の 屋根の下には 若葉あり

五月雨の みだれを越えし 朝結ぶ

朝靄に 桑の葉目覚め 白き繭

山笑い 団栗植樹 伐採林

クヌギの木 おいでおいでと 若葉風

野茨を 手折りし指に 棘のキス

若葉鳥 君の寝息と 目を覚ます

若葉風 ただ在ることの 幸いよ

茶の新芽 鹿のごとくに 食べてみる

忘れ花 夕闇に咲く つつましさ

ヤマガラに 見つけられつつ 門出かな

ヤマガラや 呼びかわす夜の 光野かな

クヌギの芽 伐採林に 一寸立つ

秋蒔きし クヌギ一寸 幼き芽

ヤマガラや 闇夜に響く 雛の声
ヤマガラとワレ 同じ巣穴で 鳴く地球

朝明けて ふくろうの声 腹に満つ

若葉闇 ふくろうの声 地の響き

洩れくるや 夜ごと夜ごとの 若葉鳥

射しこむや 深き谷間に 若葉鳥

卯の花と 茨そよぎし お休みどころ

茨摘む その手に朝を 抱擁す

アマガエル 友ら帰りて あらわるる

ヤマガラに 朝は届けし 金の乳

スイバの穂 ついばみくらう ヤマガラら

小鳥乗せ 折れそで折れぬ スイバの穂

ホトトギス 悲苦の奴隷ぞ 夜の笑い

五月雨や 樹の陰めざし 蝶一葉

五月雨や 霧払われて 五月晴

チェロの音に 浄められにし 光の野
 (玉木光さんに捧げる)
君のため 茶の葉サンショウ 粥つくる

ガマズミの 白き蕾に アマガエル

十三夜 ふくろう鳴きて 水の底

刻々の 爆発を待つ ガマズミや

ぬっくりと ふくろう鳴きて 月出づる

ウグイスや 光の器 旅をせん

イセビ燃ゆ 花の中に 雪ありや
(イセビは球磨地方の方言。ガマズミのこと)
摩天楼 経巡る水の かそけきや

チェロの音に 満ちて帰るや 梅の月

長寿院(チョウジイン) ウグイスの音と チェロの音と

慈雨のごと 注ぎたりし 銀杏の葉

ようこそと 迎えたりしは 遊行寺の龍

垂乳根の 銀杏仰ぎて 若葉風

左足 半歩踏み出し 一遍上人

梅の木に 下がるや毛虫 照手姫

玉のごと 光る紫陽花 小栗堂

蝶舞いて ヤマガラの鳴く 五輪塔

梅の実を 拾いし遊行寺 掃除僧

ユズリハの 軸紅色に そそり立つ

遊行寺の ドクダミの花 墓守りや

水無月や イセビに紛るる 蝶一葉

ツメクサの 白き群れから 白き蝶

朝日射し シロツメクサは 香りけり

アマガエル 山椒の葉の アルピニスト

白き蝶 地から湧き出て 舞い上がる

福の神 破れてのちに 石楠花の花

水無月や 山間に座す 有明海

春嵐 渡り損ねて 水しぶき

水無月や 無事に渡って しぶき雨

五月雨に 軒先借りし 捨犬や

コスモスを 移し終われば 梅に雨

カマキリや 何くれとなく ゴミの上

梅雨空に 八咫(やた)の烏の 笑う声

アマガエル 傘を開けば アババババー

梅雨空に 浮かぶ三日月 水たまり
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「墓碑銘」以降(4)

第二句集「墓碑銘」以降の句
2007.4.3(木)〜2007.5.3(木) 64句
           上島聖好

   4.石楠花(しゃくなげ)

これでよし サクラさくら みな桜

希望しか 見えぬ春の 朝は明く

わが怒り 海石(いくり)おろせよ 春の海

火のごとき 赤きつつじ わが墓標

聖杯は 砕け散りぬか 春の海

伐採林 浅きレヴェルの メタファーよ

真実は 田に水張られ 輝けり

聖好に 涙は合わぬ 春嵐

春風や やさしさを武器に 闘はむ

春の風 神のみぞ知る われ知らず

春の朝 小鳥が窓を たたいてる

わが砦 やさしさのみと 知る春や

やさしさは かなしむ母の 捧げ物

復活祭 許しにむかって 進む朝

水仙を わが手に抱けば しおれけり

かなしみの 生まれる淵が 春の泉(みず)
 (クロネコヤマトの岩城さんを偲ぶ二句)
春の雨 泉となれり 旅人よ

呪い解け 翔び立つ桃の 花満ちる

春の空 象は普賢を 揺さぶらす

春の空 成就の約束 花椿

これほどに 荘厳するか 山桜

春の空 土地との対話 足の土

サクラソウ 大地の予祝 然(しか)と受く

濃き紅の 大地の涙 サクラソウ

瀧月 鹿はとどろき 地を駆ける

伐採林 倒れし椿を 引き起こす

春霞 菫荘厳 伐採林

桃飛ぶや みどりご放ちて 宇宙船

わが門出 ユズリハとモモ 荘厳す

石楠花の 咲き初む庭に 友と立つ

ごくらくと 風鈴ならすや 春の風

ケセラセラ カリフォルニアの 幼な子歌う

春の空 捧げられし 肥後椿

憲法九条 われらが無垢の 宝子よ

春の空 やさしく聞けり あるがまま

栂の木に 次の芽揺れし 花曇り

春の雨 テロに倒れし 長崎市長

すさまじき 雷起こし 市長逝く

霧晴れて 新芽は空へ 突き上げる

天を刺し 青空一点 みな新芽

日だまりに 菫群れなし 春最中(さなか)

菜の花や 卯月三日月 宵の舟

イカル鳴き 日は木立に 射しこめり

春うらら 藪から鶯 顔を出す

ハコベ食べ 小鳥飛ぶ羽に 朝日射す

おずおずと 新芽を伸ばす 西覚寺
 (高原美都子さんに捧ぐ)
花吹雪 したたり落ちる 愛の傷

山吹に 誘われ走る 若葉道

山吹の 花は一重の 潔きかな

霧晴れて 石楠花みちる 雲の嶺

朧月 夢想家の道 歩むべし

山桜 山路を散華 ただ落ちる

石楠花に 包まれ眠る 夢見猫

友が来て 菖蒲を植ゆる 入日かな

父亡くし アケボノツツジ 花ひらく
 (渡辺詩美さんに捧ぐ二句)
父亡くし 朧月夜に 虹かかる

ヤブツバキ 水面(みなも)に落ちて 月満ちる

夜が明けて 鳥待つ背中に 濃き若葉

若葉立ち それぞれの朝 求めゆく

石楠花を 植えし友あり 花の寺

満月夜 ものみな若き 早苗月

早苗月 欠けた茶碗に 満月夜

伐採林 どんぐり植ゆる 五月三日

地虫鳴く 五月三日は 十六夜 
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「墓碑銘」以降(3)

第二句集「墓碑銘」以降の句
2007.3.9(金)〜2007.4.2(月) 58句
           上島聖好

3.春雷

これからだ 春淡き空 われに告ぐ

これからだ 生きてみようか 鶯よ

平安です 友の言葉は 桃の花
 (横山貞子さんの言葉)
桃の花 今際(いまわ)のときまで 満ちて咲く

山鳴りに 遙けき春の 海おもう

乱れ風 次の予兆に 春はゆく

青き風 風乱るれば 大気圏

春風に 持たれて運ぶ 残り杉
 (泉谷龍さんとグレッグさんが薪を山から運ぶ)
生国(しょうごく)を 語る君の眼 春の海
 (緒方正人さんに捧げる)
春の雨 辿りしゆかば 不知火海

天藻のごと 揺らめくわれを 君つかむ
 (興野康也に捧げる)
平の谷(ピース・ヴァリィ) 君の原点 ここにある
 (グレッグさんに捧げる)
花はここ 君と二人で 杭を打つ

亡き友の 形見のセーター 七回忌
(聖好さんの母・上島千嘉子さんの七回忌に紫垣智子さんがセーターを持参)
消えてゆく これが自然と 叔父笑う

阿蘇連峰 名残り仕事は 春の雪

水仙の 重たき蕾 故郷かな

彼岸空 霜のまにまに イヌフグリ

春満ちて 新月漂う 彼岸空

鶯や 天空上る 雲の龍

ハマダイコン 口に含めば 塩辛き

波光る 大地を踏みしめ 海にゆく

石たちを 眠らす春の 海の歌

春の海 つづくいのちに 信を置く

藪椿 暗き谷間の 音符かな

日入鳥 窓辺にきたりて 励ましぬ

君ときて 菫うれしや 鶯路

かなしみを 花と差し出す 桜月

よしなるぞ 鶯の鳴く この道すべて

開拓者 鶯の音は 子守歌

菜の花を しゃがんで見れば 春の雨

春の雨 足元の土 よろこべり

春の雨 涙か雨か 別たずや

父亡きや コジュケイの鳴く 春の雨

まだ咲かぬ 花を捧げん ミミナグサ

陽春に 羽ばたいてみん 日入鳥

わが虚空 明け放つしか 道はなし

君の踏む 足音大地を どよもしぬ

桜月 天に上りて 花となる

菜の花や 青天白日 覆いなし

風に舞う 洗い晒しの 春シーツ

辛き日に 椿咲き初む 今一輪

大丈夫 祈っています 春の風

風を見る 風鈴を聞く 桃の月

蝶二人 まろびつ虚空に 消えてゆく

スミレの葉 踏みにし石を どけてみる

桜月 三日三晩の 大航海

雷だ 大地を揺るがす 春の雨

霧桜 胎児のごとく 漂えり

春の日に 君 柿の苔 むしりをり

軽石は 桜吹雪を 夢見てる

春雷に 打たれよ桜 したたかに

春の夜の 光いざなう 鹿の声

春の霧 鳥のさざめき 極楽路

吐く息に 祈りをこめて 春の朝

これはこれ 越ゆれば光る 春の霧

わが宝珠 手放し見れば 桃満ちる

天からの滴を受けて 春霞

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「墓碑銘」以降(2)

第二句集「墓碑銘」以降の句   2007.2.14(水)〜2007.3.8(木) 56句
           上島聖好

  2.友人たち
 日入鳥 負けるな豪雨 春起こし
 
 梅ひとつ 霧の結晶 海動く
 
 逝きし人 親しき人みな 梅の中
 
 生きてみよ 「虚実のあわい」 梅の中
  (故・谷川雁さんの言葉)
 よき句とは 曖昧模糊の 足の裏
  (金子兜太氏の本を読んで)
 久し振り 亀に挨拶 巨岩かな
 
 鹿撃たる 道にはりつく 血糊かな
 
 血糊食う 犬の背中に 紅椿
 
 亀に春 自然はもはや 歌えない
 
 白い太陽 いつも私を 守っている
 
 イカル鳴く 山の春消す 戦闘機
 
 春の雨 真昼の星を 輝かす
  (「昼間の星」は故・島田等さんの言葉)
 共同作品 如月の雨 霧の朝
 
 日が射して 一枝一枝に 春宿る
 
 春の声 カルタといっしょに 鳴き交わす
  (カルタはジョウビタキに聖好さんがつけた名前)
 春浅き 鳴くにまかせよ 鳥の歌
 
 土潤み なつかしき子ら 語らいぬ
 
 如月に 始原の言葉 芽吹きをり
 
 土潤み いのちの泉 湧き出づる
 
 土潤み 枯木どよもす 鳥の声
 
 DNA 旅路の花々 なつかしき
 
 ヤマガラや 落ち葉の畑 ついばめり
 
 梅が咲き しなびた柚を もぎにけり
 
 去年より 三七日(みなのか)早し 梅の花
 
 梅三分(さんぶ) 吐息は霧に 包まれる
 
 鳥鳴いて 霧とみまがう 梅の花
 
 風鳴けば 梅もどよもす 山静か
 
 春浅き 霜の小波に 梅惑う
 
 木目(きめ)の間(ま)に 大益作品 春宿る
  (大益牧雄さんに捧ぐ)
 次の代に 霧放たれて 梅の花
  (三木次代さんに捧ぐ)
 石楠花(しゃくなげ)に 笑みかわしつつ 隠岐島
  (高梨洋子さんと斎藤美津子さんからシャクナゲの苗が届く)
 春の雨 屋根の上の 掃除人
 
 母は逝く 梅に包まれ 七回忌
 
 桃色の ヴェイルに包まれ 梅に花
 
 春はらみ 枝の先まで 紅き梢
 
 栂(つが)の木が 手を拡げて 待っている
 
 梅落花 剥がれてあらわる 神世(かみよ)かな
 
 日入鳥 未来を語る 声が餌
  (ジョウビタキのことを聖好さんは日入鳥と呼んだ)
 日入鳥 お花畑に 加勢する
 
 青空に 梅とみまがう 夕の月
 
 如月の月 光の絨毯 歩いてゆく
 
 舞い織りて 水いろの底 鶴還る
  (三木次代さんの『水いろの底』を読んで)
 やわらかき 弥生朔日(ついたち) 月の虹
 
 光立ち 色めき芽立ち 鬼笑う
 
 鳥は鳴き 苦しむ夜も 朝は明く
 
 満智子宅 桃の花びら うち揃う
  (山下満智子さんの家で)
 「天国座」 さざめく陽の花 宙に舞う
  (故・桝本梅子さんの「この世は天国座」をうけて)
 春うらら 怒りの拳 花となる
 
 紅梅に 招かれ来たる 金福寺
 
 風吹けば ひらりと笑う 落下の椿
 
 鈴のごと 馬酔木は揺れし 蕪村墓
 
 枯葉かな 思いし見れば 猫寝入る
 
 イヌフグリ 真実明け初む 春の朝
 
 春霞 絶えざる挑戦 「子ライオン」
  (林洋子さんの「聖好さんは野生の子ライオン」をうけて)
 春風や わが身の内に 水流る
 
 啓蟄に われらが大母 生まれ出づ
  (岡部伊都子さんに捧ぐ)
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「墓碑銘」以降(1)

第二句集「墓碑銘」以降の句
   2007.1.30(火)〜2007.2.12(月) 14日間 51句
               上島聖好

   1.ユートピア
 冬の月 ちから合わせて 仕事する

 冬霧に 鹿五頭見た 弾む愚(きみ)

 霧晴れて 隣の焚火 漂いぬ

 ユートピア 瞼にあたる 夕日かな

 郵便婦 後ろ姿に 霧動く

 雪間から 光輝く 雪も降る

 波になれ 冬波となれ 常世月

 雪はゆく 一路平安 降りしきる

 わが天職 墓碑銘刻む 朝々に

 また抜けた 立ちあらわるる 西の山

 寒満月 君の背負いし 十字架よ
  (グレッグさんに捧げる)
 友織りし 水俣を指す 「メビウスの環」
  (齋藤幸江さんに捧げる)
 寒満月 霜柱踏み 花の寺
 
 寒満月 ひかり光りて 蒼き空
 
 寒満月 悪霊微塵に 砕け散る
 
 寒満月 霜柱立ち 犬吠ゆる
 
 寒満月 白き大根 立ち上がる
 
 寒満月 生まれなおした われが立つ
 
 寒満月 脱皮の蟹の 紅き汗
 
 寒満月 さなぎは蝶に なりにけり
 
 寒満月 峰に砕ける 銀の波
 
 寒満月 君冴え冴えと 眠られぬ
 
 節分や 奥歯のごとき 黒き山
 
 節分や 黒き峰々 山動く
 
 節分や 花の寺には 神亀あり
 
 節分や 霜柱から 草のぞく
 
 立春の ニンニクの芽 よろこべり
 
 立春や 小鳥さざめく 寺の朝
 
 立春の ぬくき日射しに 友ら笑む
 
 立春に 友訪れて 語らいぬ
 
 立春に 小鳥のさざめき 鳥の歌
 
 立春に 救急サイレン 駆け回る
 
 日入鳥 われはヒバクシャ 春近し
 
 言の葉は 生まれゆくもの 生むでなく
 
 春立ちぬ 犬と主人は ふとんの子
 
 春霞 苦行続けて 三十年
 
 春の水 呑まれて一口 火を灯す
 
 十九夜 春水一杯 月の影
 
 ゴミ捨て場 いのちの芽吹き タブラ・ラサ
 
 理想郷 桃の根っこに 墓石おく
 
 如月の 春雷を呼ぶ 猫の声
 
 縦横無尽 春雷いまを 駆け回る
 
 雲裂けて 乳の中一匹 ひそむ魚
 
 如月の 霧の中から 鳥の声
 
 わが怒り あなたに捧げる 愛の歌
 
 春雷や わが身は神への 捧げ物
 
 如月の 畑に眠る ごろり馬鈴薯
 
 如月に 乞食なりたや オリオン座
 
 春めいて 切株ひとつ 拾いけり
 
 春めいて クヌギの枯葉 風踊る
 
 日入鳥 尻尾に春が やってきた
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日入鳥 (1)

句集「日入鳥(ひいれどり)」 2007年1月9日記(126句 2006.11.20〜2007.1.9 51日間)
          上島聖好(うえじましょうこう)

1.初発の句

 深夜の蛾 憎む我あり 鹿の声
 
 ジョウビタキ 重たき朝に 火をいれる
 
 なつかしき 父祖たちあらわる 溶岩野
 
 仔猫逃ぐ われは鬼の こどもなり
 
 白き骨 われも生きたし 桜島
 
 赤きカニ 死肉を食べて 太りけり
 
 日が射せば わが世は春か 冬の朝
 
 ジョウビタキ 心の扉も 開いたよ
 
 鹿鳴けり 祈り忘れた 山人よ
 
 生きるシカ 生きるシカバネ これ同じ
 
 峰々に 入日すべれる 鹿の声
 
 十六夜(いざよい)に 群雲かかりて 冬の虹
 
 犬とゆく 椎の実植ゆる 冬斜面
 
 枯すだま ムラサキシキブ 一人立つ
 
 霧の谷 これが私の 作品だ
 
 冬の朝 三角山に 光射す
 
 まだ射さぬ 光求めて 茶のめしべ
 
 血の中の ピラミッド立つ 霜の朝
 
 「三歳児」の 私が笑う 完璧な朝
 (故・谷川雁さんは私を三歳児と呼んだものだった。)
 
 冬の朝 谷間ふるわす 救急車
 
 フユイチゴ 樹林殺伐 霧斜面
 
 竹垣に 降り積む塵に 草芽ぶく

 怒る私 魂ぢからの 理性に欠ける
 
 欠落点 責めずによろしき ところを伸ばす
 
 三角形 血の中に踊る モーツァルト
 
 時雨やみ カラス飛びをり また時雨
 
 霧深し ドアを開ければ サンマの香
 
 日落ちて 太陽のごとき 柚をとる
 
 時雨るるや 酵母をもらう 朝の夢
 
 のっきりと 首をもたぐる 時雨菊
 
 霧の山 時雨の中に 海がある
 
 きれぎれの 眠りを眠り 時雨やむ
 
 朝七時 光に礼拝 日入鳥(ひいれどり)
 (日入鳥……ジョウビタキのことをこう呼んでいる。朝日入日とともにヒッヒッと鳴く。)
 
 冬の朝 風邪吹き抜けて 光満つ
 
 春近し 亀と見まがう 巨石かな
 
 絹時雨 マリアの道を 歩みたし
 
 絹しぐれ 犬のうんこに 湯気の立つ
 
 またたけば 青空一片 絹しぐれ
 
 日が出たか 背中のぬくもり 淡き雪
 
 冬の朝 ぬくたい部屋に 起きる幸
 
 冬日射す 道に小鼠 轢かれをり
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日入鳥 (2)

2.クリスマス

 柚風呂は 満月のお宿 クリスマス
 
 冬の日に 増ゆるいのちの 準備かな
 
 夜も昼も 俳句ころがす 日入鳥
 
 霜の朝 棚引く香(こう)は 雲のごと
 
 霜の朝 丸太に煌(きらめ)く ダイヤモンド
 
 冬日射し ゆるむ山肌に 種をまく
 
 雲一点 なき冬空に 杉木立
 
 冬至の蛾 深夜徘徊 耳許(もと)で
 
 夜の蛾の 行方を捜す 冬の朝
 
 冬晴れて 上へ上へと 上る靄(もや)
 
 冬の日の 田んぼの積(つみ)わら 影長し
 
 聖夜の日 まないたの音で 目が覚むる
 
 冬至の日 希望に向かって 歩むとき
 
 聖夜の日 「明るい台地」に われら立つ
 (明るい台地……ヤースナヤ・ポリャーナ。トルストイ生誕地。北御門二郎さんに教えてもらう。)
 
 年の暮 モズが尾を振る 願成寺
 
 ストライプ DNAを 駆け抜けよ
 (ストライプ……映画に出てくるシマウマの名。競走馬志願。)
 
 年の暮れ 御堂の如き 麹室(こうじむろ)
 
 メリークリスマス 会う人ごとの 浄らかさ
 
 まだ浅き エンドウの支柱 クリスマス
 
 冬燕 夢中に雨中(うちゅう)を 飛び交ひぬ
 
 トラウマを 越え去りゆかば 別天地
 
 最期まで 希望に頭を もたげたい
 
 時雨止み 柚もぐ棹に 香気立つ
 
 朝六時 星の多さに 驚きぬ
 
 亡者のごと 倒れし杉に 夕日射す
 
 ジョウビタキ 犬の散歩に ついてくる
 
 寒波到来 マメの苗に 落ち葉まく
 
 冬の朝 闇夜くぐって 芸冴ゆる
 
 時雨空 ああわたしには 文字がある
 
 冬の朝 重心を保つ 一本足
 
 森うたう 固雪ようこそ おいでませ
 
 夕暮れて 雪をよろこぶ 巨石かな
 
 雲間から 日が射す山に 雪乱る
 
 日入鳥 新しい日に 辿りつく
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日入鳥 (3)

3.大晦日

 音もなく 落ち葉のままに 雪置かる
 
 柚もげば 心に響く 除夜の鐘
 
 耳の月 水の音だけ 聞いている
 
 青き空 黒き峰々 年の暮
 
 あたたかき 布圃を出でて 年の暮
 
 寒い朝 われを励ます 友の夢
 
 年の暮 クマタカの舞い 大空に
 
 花の寺 一番星を 見いつけた
 
 深夜の蛾 道をみつけて 旅に出る
 
 寒い日 布圃を這い出す 気も失せる
 
 おおみそか 日毎に肥ゆる 耳の月
 
 おおみそか 入日の波に 竹高し
 
 大晦日 いま一瞬の 入日波
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日入鳥 (4)

4.新年

 あらたまに 生まれ直した われがいる
 
 あらたまや 無窮の先を 窮めたい
 
 あらたまを 告げる鳥こそ 日入鳥
 
 正月や 青空のぞく 厚い霧
 
 霧晴れて 天を覗(のぞ)かす 寝正月
 
 正月や 暗中模索 霧深し
 
 霧の中 夕焼け小焼け 五時の鐘
 
 新年や 天地の間に 月の虹
 
 枯木立 夢の言葉を 書きつける
 
 あらたまや われは動物 二本足
 
 日入鳥 目と目が合って 立ちつくす
 
 正月や ネブカのごとく 寝正月
 
 初仕事 ただ明るく 生きてゆく
 
 冬鴉 横切る羽音 空(くう)を切る
 
 冬の朝 深き眠りに 次の花
 
 冬曇(ぐも)り 木の伐(き)られし音 ただ一つ
 
 寒月夜(よ) この夜の果てまで あい照らす
 
 冬霧裂きて 天地も突き刺す チェーンソー
 
 生きること 是れ道楽と 冬鴉
 
 時雨降る 無量のわれが ばらまかれけり
 
 雛鳥か ふり向けばただ 木の軋み
 
 白い太陽 時雨とともに 輝けり
 
 手洗いに 起たずに目覚む 冬の朝
 
 雪の朝 風にさらわる 物捜す
 
 寒風に 吹かれし木々は みな兄弟
 
 雪やみて 聖なる入日 射しこめり
 
 雪の朝 目開かるる 奇跡あり
 
 おはようと 挨拶かわせば 朝生まる
 
 天井の 梁(はり)鮮やかに 冬眠り
 
 日入鳥 いのちのよろこび 胸開く
 
 時雨つつ 光の帯が 峰をゆく
 
 冬語り 自死した友の 年数う
 
 フィリピンへ 自死した友の 願い受け
 
 シーラカンス 冬の青空 泳ぎおり
 
 生きとし生ける いのちは誉めて 育つもの
 
 冬の日の 青きキャンバス 白い雲
 
 生きよなお 一瞬のこの 命の舞台
 
 日入鳥 鳴かずにすぎた 三年有余
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